なぜ盗塁記録は塗り替えられないのか? セ・リーグ史上NO1の盗塁王が語る盗塁の極意と秘話
スイッチヒッターへの転向は苦労が多かった
当時はテーピングがなかったため、関節が抜けやすくなった肩をゴムチューブで巻きながらプレー。それでもバットを振った瞬間などに抜けることはあったが、徐々にプロの世界で頭角を現していった。
苦労した思い出の一つは肩の手術の影響で、右打ちからスイッチヒッターに転向したことだ。俊足をより生かすための取り組みだったが、不得手な左打ちの練習では当時、長嶋監督からホームベースに1度バウンドさせる形でゴロを打つように命じられ、それがどうしてもうまくいかなかった。
「打球をホームベースに当てるには、感覚的には、来たボールに対して真っ直ぐバットを下ろさないといけない。でも、1回も成功しなかったですね」
松本氏はそう振り返る。だが、そのような努力の成果もあって、その後は1番打者に定着。走力を生かして2度の盗塁王に輝き、守備範囲の広い外野手としても活躍した。そして、当時、樹立したセ・リーグ記録はいまだ更新されていない。
「三ケタの盗塁を成功させた福本さんが精神的に強かったように、パ・リーグもセ・リーグも個性ある人が昔は多かった。そういう個性が今はだいぶなくなってきているように思います。これから、そういう選手がどんどん出てきてほしいですね」
松本氏はそう言って次世代のスターの出現を期待する。球場に足を運ぶファンにとって、盗塁は醍醐味の一つ。偉大な記録がいつ打ち破られるのか。ファン以上に、松本氏自身がそれを楽しみにしている。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count