FA市場に残された“最後の大物”が6月に入ってツインズと契約 契約成立の足かせとなったクオリファイング・オファー制度とは
モラレスはQO提示額を大幅に下回る契約となった
ここで1つポイントとなるのは、QOを提示する選手を決めるのは球団であり、選手本人が自薦するわけではないということ。選手は単純にFA市場で自分の価値を試したいとQOを却下しても、ドラフト1巡目指名権の喪失という足かせがつきまとってしまう。
皮肉にも、QO提示されるのは好成績を残した選手のみ。契約先を自由に決められるはずのFA権が、本来の意味をなさなくなってしまう。その点を厳しく批判するのが、モラレスの代理人も務めるスコット・ボラス氏だ。「選手会は全選手の権利を守り、全選手が等しくFA権を行使できるように努めるべきだ」と話している。
今回のモラレスの場合は、「いい選手だが高い年俸を払った上にドラフト指名権まで失いたくない」という球団サイドと、「ドラフト指名権を失う分だけ年俸を割り引くような形で選手を安売りしたくない」という代理人サイドの見解の違いにはまり込んだ好例だろう。
毎年6月初旬に開催されるドラフトが終われば、ドラフト指名権喪失の問題は解消される。モラレスは自宅のあるマイアミでトレーニングを積みながら、足かせが外れる日を待ち続け、すべてが終わった8日にツインズとの契約を結んだ。1年1000万ドルの契約で、実働では741万ドル。皮肉にも、QO提示額1410万ドルを大幅に下回ることになってしまった。
今後もモラレスのようなケースが生まれることは大いにあり得る。メジャーを代表する選手が開幕時にどのチームにも所属しないのは、やはり何かが間違っているだろう。このQO制度が球団と選手の双方にとって平等なものなのか。現行の労使協定が失効するのは2016年終了後だが、それ以前に何かしら改善方法を探らなくてはならない気がする。
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佐藤直子●文 text by Naoko Sato
群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。