【小島啓民の目】追われるより追う方がいい? 高校野球の大逆転劇に見る選手の心理状態
1997年夏の甲子園で起こった大逆転劇
1997年の甲子園、市立船橋(千葉)-文徳(熊本)の試合、3回表まで1対9と文徳が8点リードして、一方的な試合展開となり、誰もが文徳の勝利を確信していましたが、市立船橋がじりじりと追い上げ、5回を終了した時点で7対9の2点差。さらに6回裏に市立船橋が一挙10得点の猛攻を見せ、17対9と大逆転。最終的に文徳が1点を返しましたが、17対10のと市立船橋の勝利という結果で終わりました。
この試合、たまたまテレビ観戦をしていましたが、追われる文徳側に重圧がかかっていることが明らかに読み取れました。「8点もリードをしながら負けるわけにはいかない」との心理状況から序盤の勢いは失せ、点差が縮まっていくたびに硬さが目立つようになってきました。
文徳の監督も、「投手交代及びタイムを取って間をつくる」というような普段の接戦ではできているようなことが効果的にできず、どこか采配がぎこちなくなって来ているのも分かりました。
大量リードしているからこそ、「逃げ切らねば」というプレッシャーが球場全体から押し寄せてきたのでしょうか。逆に、追い上げる市立船橋は「いけるぞ」と回を重ねるごとに上り調子となっていきました。ファインプレーは出る、投手は攻めの姿勢で序盤とは全く別人の投球をする、といった具合です。
このように、負けている時は、「追われている方が辛いんだ」と言い聞かせて戦えば勇気が湧いてきます。たとえばマラソンで、逃げる先頭よりも、追う後続選手の方が、先頭の姿が見え始めると俄然勇気が湧いてくることをイメージしてもらえば分かりやすいでしょうか。だから、ゲームセットまで諦めてはいけないのですよね。
余談ですが、この試合で文徳選手の中に、状況が一転しても動じない選手がいました。
一昨年現役を引退しましたが、楽天で打者として活躍した河田寿司選手(文徳-三菱重工長崎)です。この選手、インコース低めの難しいボールに肘をたたみ、バットヘッドをボールの内側に入れ、甲子園の左中間フェンスに左打者ながら弾丸ライナーで直撃させました。高校生でこのバッティングが出来る選手は少ないでしょう。
試合直後に文徳の監督に電話をして、私が監督をしていた三菱重工長崎へ入社を検討して欲しい旨を伝えたくらいです。