【小島啓民の目】追われるより追う方がいい? 高校野球の大逆転劇に見る選手の心理状態

1球への集中力をどれだけ持続できるか

 野球では、ゲームセットまで、両チーム合わせて250球程度(延長になれば当然増えます)の攻防が繰り広げられますが、1球の重みは、イニングに関係なく250球全部同じです。その1球への集中力をどれだけ持続できるかが、勝敗の鍵となります。

 サッカーに代表されるような他競技では競技特性上、ほぼあり得ない、9回裏の大逆転が野球の醍醐味ですが、投手が投げる1球1球の意味を感じながらプレーをすることがよく言われる「試合の流れ」を掴むということに繋がり、そのような粘りを呼び込むのだと思います。

「試合の流れ」とは目に見えるものではありませんので、説明することは難しいですが、ベンチワーク、選手の状況判断が的中する確率が高くなる瞬間だと置き換えることはできるでしょう。そういった意味でも、選手が集中することが流れを掴むことに繋がるとも言えるますね。

 投球に限らず、安打後の外野から内野に返球されるボールも1球と同じです。よく外野手が内野手に返球した後、ホッとしてボールに背を向けて守備位置まで戻っていくシーンを見受けますが、その内野手が投手に返球したボールが暴投となったなど、アマチュアレベルではよくある話です。プレー中は、絶対に目をボールから離してはいけないという一例です。

 何があるか分からないのが野球です。最後の最後までボールから目を離さない集中力が勝利を呼び込むのかもしれません。

 少し前になりますが、アウトカウントを間違えてスタンドにインプレー中のボールを投げ込んでしまう。更には、ファールボールと勘違いしてインプレー中のボールをスタンドに投げ込こみなどの行為を行ってしまったプロ野球選手がいました。

 ファンサービスが定着しているプロ野球界ですから起こりうる事象ですが、ジュニア期の選手が憧れている選手が集中力の欠如としか言えないミスを犯したことは、いただけません。そういった意味でも、今回の夏の甲子園では「1球の重さ」を大切にした熱戦を期待したいと思います。

【了】

小島啓民●文 text by Hirotami Kojima

小島啓民 プロフィール

kojima
1964年3月3日生まれ。長崎県出身。長崎県立諫早高で三塁手として甲子園に出場。早大に進学し、社会人野球の名門・三菱重工長崎でプレー。1991年、都市対抗野球では4番打者として準優勝に貢献し、久慈賞受賞、社会人野球ベストナインに。1992年バルセロナ五輪に出場し、銅メダルを獲得。1995年~2000年まで三菱重工長崎で監督。1999年の都市対抗野球では準優勝。日本代表チームのコーチも歴任。2000年から1年間、JOC在外研修員としてサンディエゴパドレス1Aコーチとして、コーチングを学ぶ。2010年広州アジア大会では監督で銅メダル、2013年東アジア大会では金メダル。侍ジャパンの台湾遠征時もバルセロナ五輪でチームメートだった小久保監督をヘッドコーチとして支えた。2014年韓国で開催されたアジア大会でも2大会連続で銅メダル。プロ・アマ混成の第1回21Uワールドカップでも侍ジャパンのヘッドコーチで準優勝。公式ブログ「BASEBALL PLUS(http://baseballplus.blogspot.jp/)」も野球関係者の間では人気となっている。

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