一流IT企業を辞退して選んだ独立リーグの舞台 NPB研修審判員が描く未来
正しい判定でも暴言浴びる“宿命”、控え室では涙を流す者も
研修審判員たちはメンタル面での負荷に耐えながら研鑽の日々を送る【写真:編集部】
しかし、NPBの舞台に上がれば選手や監督はもちろん、メディアを通じて数え切れないほどのファンを背にジャッジの責任を負わなければならないのが審判という職業。修行生活は厳しい。
リーグの審判部を統括する神谷佳秀審判部長は、審判という職について、数々の若手審判員を育成してきた立場から以下のように語る。
「若い審判員は選手たちと同様、どんなに練習を積み重ねても失敗がつきもの。どんなに正しく判定をしても、若い審判員というだけで周囲は認めてくれないものです。
昨年9月の首位攻防の試合では本塁でのクロスプレーが立て続けに起こり、その判定はわずか指一本ほどのすき間を見逃さなかったすばらしい判定でしたが、監督、コーチ、選手たちに詰め寄られ、暴言を浴びせられる審判員がいました。これは大きな試合を任された審判の宿命でもあるのですが……。
よく審判はミスをしても反省していないなどと言われますが、とんでもありません。それは本人が一番良くわかっていて、試合後に控え室で涙を流して悔しがる者もいれば、眠れない夜を過ごす者もいる。そんな経験を乗り越え、上達し、強くなっていく」
技術的な鍛錬はもちろん、メンタル面での負荷は計り知れない。それに耐える覚悟を持った上で若き研修審判員たちは、プロの舞台を目指して生活を送っている。
ナイターの場合は午前中から前日の試合の反省や新たな取り組みの伝達を行い、ルールの勉強、グラウンドで1時間ほどのウォームアップ。試合を裁き、帰宅後はその試合の出来事について審判同士で意見をぶつけ合う。さらにビデオ録画した映像のチェックも欠かさない。一日丸ごと審判漬けの日々が続く。
「1試合通して良く出来たところ、良くないところがあり、全部が良いということはない。1試合で立てた目標は絶対に達成し、昨日より絶対良い動きが出来るようになる」
古賀は日々の目標についてこう語る。「審判は片目で打球を追い、もう一つの目でランナーの位置を追う」。アンパイア・スクールで先輩の審判員にこう言葉をかけられた時はまだその感覚は掴めなかったが、今では「そうしないと試合を裁くことができない」。1試合1試合、日々上達を重ねた成果が言葉にも表れ始めている。