“レジェンド”山本昌、独占インタビュー(下)「自分に投球術なんてない」
投球術に称賛の声も…「『術』はない。仙人じゃないですから」
今季限りで現役引退した中日の50歳左腕・山本昌投手が、独占インタビューで思いを激白した。ジェイミー・モイヤーのメジャー最年長勝利(49歳151日)を超える世界記録の達成が期待された今季、49歳363日での登板となった8月9日のヤクルト戦で左人差し指を痛め、わずか22球で降板。9月25日に自身のブログで現役引退を発表した。
野村克也氏も絶賛する投球術の秘密、32年間のプロ野球人生での悔い、今後の人生への決意……。レジェンドの胸中に迫った。
――山本昌さんの投球術について聞かせてください。野村克也氏は、山本昌さんのピッチングは『お手本』だとおっしゃっていました。例えば、直球を速く見せるコツなどはあるのでしょうか?
「野村さんは野球人として一番、尊敬している方ですから。一緒にやったことはないですけど、そう言っていただけるのは本当に嬉しいです。ただ、自分に『術』なんかないんですよね。『山本昌さんの投球術が』と、よく言われるんですけど、正直言って投球術なんてないです。明確に『こうしたら速く見えるよ』とか、『こういうふうにしたらいいよ』なんてないですよね。説明してみろと言われても、逆に困るくらい。
ただ、キャッチャーの意図を汲みとって投げているという意味では、例えば若手よりもそういう部分は秀でているところがある。キャッチャーのサインをただ見て投げるんじゃなくて、キャッチャーがサインを出したら『これはボールが欲しいんだろうな』とか、『ここは勝負しなくていいんだろうな』とか、そういう意図でサインを出しているというのは分かりますので。もしあるとしたらそういうところでしょうね。
真っ直ぐを速く見せるコツなんてないですよね。速くないんだから。もしそう見せているとしたら、それはキャッチャーの手柄じゃないですか。速く見せている。『術』はないです。仙人じゃないですから」
――打者の逆を突いていくということでしょうか?
「そういうことでしょうね。それ(キャチャーの要求)に応えていたと。僕自身は、こういう風にやったら『ほれ見ろ。速く見える』なんて、そういうのは全くないです。つまらない種明かしだと思いますけど」
――それを実現するコントロールなど、そういう部分が大切だと?
「そうだと思います。説明することはできませんけど。速く見えるということは、その感覚は僕だけのものになりますので、実際のスピードというのはスピードガンのスピードですから。そういう意味ではどうでしょう? 自分では(投球術は)持っていなかったと思っています」
――32年間やってこられましたけど、組んだキャッチャーは意外と少ないですね。
「中村、矢野、谷繁、小田くらいですね。逆に言うと、キャッチャーに恵まれたんですね。ほとんど首を振らないピッチャーなので。キャッチャーのリードに対して、そのリードを読み取って、僕がどう投げるか。そういうことを考えているピッチャーでしたので。これは嫌だなと思ったら、うなずいてワザとボールにしたりとか。そういうことをしてましたね」
――球団によっては、キャッチャーがすごく入れ替わるところもあります。
「そこも幸せだったですね。それがなければ200勝に届かなかったかもしれないです」