衝撃の男気復帰から1年、黒田博樹の「MLB→NPB」における投球の変化とは
最も有効だった球種は? 投球術を果敢に変化させるスタイルは日本復帰後も健在
最後に投球の細部、球種についても見ていきたい。黒田の球種割合には注目すべきポイントが2つある。1つはストレートとツーシーム(※2)のバランスだ。今や黒田の代名詞となったツーシームだが、渡米直後はこの球をほとんど使っていなかった。割合が劇的に上がるのは2010年から。以降、黒田はこの球を中心に投球を組み立ててきた。
もう1つはスライダーとスプリッター(フォークボール)の割合の変化だ。もともとはスライダーを多用していたが、徐々にスプリッターを増やし、日本復帰直前の2014年はスライダーの割合を上回った。MLBでは淡々と先発投手の役割を果たし続けた黒田だったが、内側ではなかなかドラスチックな変化があった。
日本に帰ってきた黒田は、変わらずツーシームをよく投げていた。ただしここ3年はほとんど投げていなかったストレートの割合を少し高めている。また、スライダーとスプリッターの割合は、スライダーが上回った。日本の打者を抑えるためのマイナーチェンジを図ったのかもしれない。
なお、ある球種を投げた際の結果を集計し、ストライクや内野ゴロのような失点を引き寄せにくい結果をどれだけ記録したかなどを集計し球種の有効性を探るPitch Valuesという指標を見ると、代名詞のツーシームよりもスライダーが最も効果的な球種になっていた。
どのようなメカニズムでスライダーが効果を生んでいたかに言及するにはさらに細かい分析が必要だが、とにかく日本で“効く”球種となったスライダーの割合を高めたのはプラスに働いたはずだ。MLBで見せた投球術を果敢に変化させるスタイルは、日本でも貫かれたといえる。結局のところ黒田の強みは、自分の持てるものをうまく組み合わせて、その時々に適した投球を探っていけるところにあるのかもしれない。
制球力と打球管理能力を生かしMLBで活躍した投手がNPBにやってきて、奪三振減とゴロ増という成績推移を見せたという今回の黒田の事例を、守備力に長けた広島の二遊間の貢献の影響なども合わせさらに詳しく分析していけば、今後来日する投手の活躍を見通す際のヒントを与えてくれることだろう。
※1 MLBでの黒田博樹の成績はMLB公式、米データサイト・FanGraphsで公表されているものを参照している。
※2 FanGraphsでは黒田のツーシームはシンカーとして記録されている。今回は日本で一般的に呼ばれているツーシームに合わせた。
【了】
DELTA●文 text by DELTA
DELTA プロフィール
DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート4』を2015年3月27日に発売。算出したスタッツなどを公開する『1.02 – DELTA Inc.』は現在ベータ版を公開中。