現役時代はうなされる夜も 「野球嫌い」の元日ハム選手が野球で得る「幸せ」

コーチとは「選手に教えるんじゃなくて、一緒に歩んでいくこと」

 野球選手として、技術を磨くことは重要だ。だが、NPBに進んでも、一般社会に進んでも、技術以上に大事なことは「精神的な強さであり、いかに内面が磨かれているか」。徳島では、技術の向上はもちろん、1人の社会人として恥ずかしくないように、人間として成長できる環境作りに努めている。監督自ら積極的に選手とコミュニケーションを取ろうと、EXILEや三代目J Soul Brothersらの曲を聴き、「『お前、これ知ってるか? 知らねえのかよ』って言ってますよ(笑)」。

 コミュニケーションの大切さを学んだのは、他でもない、台湾で過ごした日々だった。

「通訳はついていたけど、言葉が通じない。だから、選手の練習にトコトン付き合った。そうすると、言葉が分からなくてもコミュニケーションが生まれる。言葉で片付けようとしたら、選手には伝わらないんだよね。気付いたのは、選手に教えるんじゃなくて、一緒に歩んでいくのがコーチや監督だって。これが台湾に行って一番変わったこと。普段の生活でも変わったみたいで、女房が『お父さん、変わったわ』って。それまで亭主関白だったから」

 チャンスがあれば、再びNPBでコーチをしてみたい気持ちもある。「これまでの経験を生かして、今度は違った意味で選手と一緒にやれる自信はあります」という。同時に、徳島で指揮を執ることも「腰掛け程度でやるのはダメ。中途半端にはしたくない」と全力投球だ。

「こういうのも縁だから。チャンスがあればね。今は徳島で選手の内面を磨きながら、自分の内面も磨いている。俺が野球が好きとか嫌いとか考えるのはおこがましい。野球が俺に働けって言ってくれている。NPBでコーチやスカウトをやらせてもらって、台湾でコーチと監督をやらせてもらって、今度は徳島に来て、去年も今年も北米遠征の指揮を執らせてもらった。現役時代は電車の乗り継ぎも分からない世間知らずだったけど、視野が広がった。その上で、まだ野球にかかわっていられるんだから、そういう意味では幸せですよ」

 嫌い嫌いも好きのうち。やっぱり野球が好き、いや野球から好かれている幸せ者なのだろう。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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