「野球が好きな人にはたまらない」― プロ野球スカウトの仕事の裏側とは
スカウトたちが膝の上にタオルを置いて観戦する理由とは…
「1年に何百試合を見て、何千、何万キロを飛んでいるかわからない」と別のセ・リーグスカウトが苦笑いした。
こんな苦労話もある。高校野球の甲子園大会では各球団、ネット裏に数席確保されているが、当然それだけではスカウト全員が座れない。若手スカウトは朝7時からファンと一緒に球場前の列に並び、開門と同時に人数分の席を確保する。夏場は膝にタオルを置いて視察するスカウトが多い。「試合中はずっと座っているから、ズボンの同じところだけ日に焼けて色が変わってしまうから」が理由だ。同じ理由で、足の血行を良くするため5本指ソックスを愛用するスカウトもいる。
こうした苦労を乗り越え、最も大事なことは、戦力となりそうな能力のある選手の能力を見抜き、球団に推薦すること。付き合いのある高校、大学、社会人の指導者やアマチュア野球を取材している新聞記者、ネット裏で観戦する熱心な野球フリークにも人間関係を広げ、オススメの選手を情報として教えてもらうこともある。こうした努力が、他球団が目につけていない掘り出し物の発掘につながることもある。
「普段の練習に取り組む姿勢」「打席、マウンドでの雰囲気」など、スカウトが重視するポイントはさまざま。だから、試合、練習を問わず、積極的に足を運ぶのである。
高校生では早ければ春に強豪大学への進学の話がまとまることもあり、また近年は「〇位以下なら社会人入り」などという条件を設けるドラフト候補も少なくない。さらに故障を持っていないかなど、慎重に調査した上で才能ある選手をリストアップ。複数回の会議から絞り込み、最終的にドラフトでの指名に至る。
「野球を見ることが好きな人でなければ、やれない仕事。でも、好きな人にはたまらない仕事だと思う」
冒頭のスカウトは、そう言って笑った。ドラフト会議は毎年10月。いい選手を発掘し、チームを強くするため、足を運び、信頼を得る――。さながら、会社員の営業マンのような仕事でもある。そんな「目利き」と「体力」が問われる“究極の野球好き”の戦いは、今年もすでに始まっている。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count