旋風イスラエル、WBC大健闘の裏の「現実」 本国と“母国”米国の温度差
スポーツ・文化大臣は「国が率先して資金を費やしたい分野ではない」
野球が世界に広く普及するように――。そんな願いが込められたWBCで見せたイスラエルの快進撃は、大会の理想をまさに現実化したようなケースだった。だが、盛り上がっていたのは、選手の“母国”アメリカとWBC参加チームだけ。米全国紙「USA Today」電子版によれば、イスラエル本国ではスポーツ・文化大臣を務めるミリ・レジェブ氏は「野球チームがあることは知っているけど、それ以上のことを知ったかぶりしたくない。彼らを後押しすることが私の仕事だが、国が率先して資金を費やしたい分野ではないことは明らか」と話したそうだ。
この温度差の原因について、ロゼム氏は大きな問題を2つ指摘する。1つは、イスラエルにある野球育成プログラム出身の選手が1人もロースター入りしなかったことだ。ブルペン捕手としてイスラエル国籍を持ち、育成プログラムから輩出されたタル・エレルが同行していたが、近々アメリカの大学に進学することが濃厚で、彼の経験がイスラエル本国に還元されることは望まれないそうだ。
もう1つは、実際にイスラエルに住む人々と、ユダヤ系アメリカ人が抱く「イスラエル」に対するイメージの違いのようだ。WBCの試合前にある国歌斉唱時に、イスラエルはチーム全員が「キッパ」と呼ばれる帽子のようなものを頭に乗せていたが、本国の人々から見ると「この行為こそイスラエルらしくないものに見えた」という。つまり、イスラエルを代表するチームと言いながら、そのチームこそがイスラエルの本質を理解せず、ステレオタイプのイメージを抱いている感覚を沸かせたのだそうだ。
また実際のイスラエルは、人口の20%がユダヤ系ではないが、WBCチームは全員が“ユダヤ系”を主張していたことも不自然さが残るという。
イスラエル本国に野球が根付くまでには、まだまだ長い時間が掛かりそうだが、こういった議論が生まれたことこそが、その一歩になるのかもしれない。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count