覚醒のソフトB上林、伝説“170M弾” 高校からずば抜けていた「飛ばす力」
佐々木監督が贈るエール「勝利のうた」
野球の技術や精神は、周りより大人びて映った。1年秋から4番を打ち、結果も出してきた。そして、周囲の度肝を抜く打球を打ってきた。特に高校3年のちょうど今頃、左足首付近を痛めた影響で全体練習に参加できず、室内練習場にある約5メートルのロープを上り下りするといったトレーニングで全身を鍛え直してから、劇的に「飛ばす」力は飛躍したと言われている。
プロでは2、3軍で打席を多く経験。ソフトバンク・内川聖一外野手、広島・鈴木誠也外野手らと行う自主トレで1年のスタートを切り、一流の感覚に触れ、技術を吸収している。年々、体つきが変化し、プロで戦う体力と技量のレベルも上がってきた。特にボールの見極め方、バットの扱い方は昨年までと異なる。挫折を味わいながらもプロで3年の経験を積み、高校時代から優れていた技術や精神は今、“プロ仕様”に変化しつつある。そして、よくも悪くも結果にとらわれなくなった思考が好調を支えている。
「今、上林は必死だと思う。少し結果が出てきたら、段々、視野を広げていってほしい。こう守るべきだなとか、チームに対してこういう感覚になっていきたいなとか。試合の流れや配球を読んだりして、どういうバッティングをしようかなと、一呼吸を置いた余裕がもっと出てくると安定していくんじゃないかな。試合に出たい、出たいと思っていたところから、早く脱皮してほしいなと思う。そのための第一歩を踏み出したのかな。ヒーローインビューを聞いても、コメントに余裕が見えるようになったので、それが嬉しいね」
佐々木監督がそう話し終えた頃、仙台育英の監督室のテレビでは、巨人対横浜DeNAの試合が始まっていた。3日は同校OBの巨人・橋本到外野手が「2番・右翼」でスタメン出場。3回に適時打を放った。佐々木監督は「いいじゃないか、仙台育英。上林もいいし、地味だけど平沢も3日連続でヒットを打っているからね」とニンマリ。橋本の打席に注視しつつ、佐々木監督はお気に入りの詩「勝利のうた」について話し始めた。
「勝利のうた」
人生という野球では 集中力はシングルヒットだ
知性がセカンドへ進めてくれる
サードへ行くのは決断力だ
だが ホームに戻ってくるには努力が必要だ
「僕が仙台育英の選手たちに伝えたいのは“勝利のうた”なんだよね。人生に通じるなと本当に思っている。誰にだって、たまにはいいことがある。それがシングルヒット。ただ、次に進むためにはちょっと考えないといけない。そして、決断しないといけない時がある。でも、みんな忘れていくんだよね、うまくいくと。最終的には努力が必要なんだけどね。そんな感覚で、努力してよかったと思ってほしいかな」
ゴールデンウィークに輝きを放った上林。これから、周囲の期待も膨らむばかりだ。だが、まだ5月が始まったばかりで32試合を消化しただけ。シーズンは長い。ここから真価を問われる教え子へ、恩師からのエールだ。
【了】
高橋昌江●文 text by Masae Takahashi