「日本の野球が進む方向が変わる」? 甲子園の本塁打激増が意味するもの

今夏甲子園は「刺激のある大会」、日本球界全体が変わっていく可能性も

「『やっぱり体を作って、強く振るべきだ』という指導者が現れてきた。当てるのではなく、『振れ』『振れ』『振れ』と。それに伴う筋トレもさせて、ご飯も食べさせて、1球目から振るからにはタイミングも分からないから、相手の映像も見ておけ、と。昔はゴロを打ったらエラーが出る、チャンスが生まれる、とされてきました。ただ、そのせいでゴロを打つ打撃になってしまっていた。それが変わってきている」

 WBCで2度の世界一に輝いた日本の最大の強みは、「スモールベースボール」だと思われてきた。松井氏も当然、この長所は重要だと考えている。ただ、「スモールベースボールが先に来てはいけない」と指摘する。

「スモールベースボールは日本の特技とされています。ただ、最終的には体力的な野球に負ける。だから、私はよく批判される巨人のチームづくりは間違っていないと思います。V9の巨人を見たって、役者が揃ってる。その中でチームとしての機能をどう発揮するかが重要なんです。V9の巨人は、チームの機能を発揮することが終着点ではなかった。

 1つのバントを決めて、1点を守って逃げ切る。それもいいのですが、限界があります。今の高校生は、そこまで振らなくてもいいだろと思うけど、それでも打ちますよね。あれを見ていると、好球必打というのがあっての世界だなと改めて感じます。今年、これだけのホームランが出た。色々な要素が指摘されていますが、捉え方を変えた時に、我々プロもそういう捉え方をしないといけない。そういう反省があります。だから、ある意味では刺激のある大会でした」

 今夏の甲子園をきっかけに、高校野球だけでなく、日本球界全体が変わっていく。そんな可能性すらあると、松井氏は考えている。

「今から思えば、やまびこ打線を率いた池田高校の蔦文也監督は、ある意味では今のレベルの野球をやっていたのではないかと思います。あれから30年以上が過ぎて、今年の甲子園ではホームランがたくさん出ました。確かに、『筋トレをして体が大きくなったから』と理由を挙げるのは簡単ですが、プロ野球を考えた場合に、考え方を変えていかないといけないのではないしょうか。タレントを育てる。そこが欠けている今の日本球界がある。高校野球の指導者は変わっていっています。それが全てではありませんが、進む方向が若干変わってもいいのではないかと思うんです」

 本塁打量産をただの「現象」で終わらせてしまうのか。それとも、変化の始まりと見るのか。日本球界は大きな転換期を迎えているのかもしれない。

(Full-Count編集部)

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