謙虚さと努力と 西武山川の一発に詰まっている「アーティスト」のこだわり

あっという間にスパイクに穴、山川の一発を生み出す右足親指

「15年も現役選手でプロ野球界にいる方が、『打てた日も、打てなかった日も、いい時も悪い時もあるけど、とにかく休みの日や試合が終わってから、ちょっとでいいから打っておいてみな。特にお前は、打ちまくるしかないんやから』みたいなことを言ってもらったんだから、やってみるべきだなと思いました。僕は、守備の人ではない。打てなければ終わってしまうので」

 その日を境に、どんなに心身的にきつい日でも、ホームゲームの後は、デー、ナイターにかかわらず、必ず室内練習場へ出向き、マシンを相手にバットを振り続けている。

 毎試合後行う室内でのマシン打撃は、長時間のみっちり打ち込む時間には充てない。ただ、「軽く振る」程度。だが、極めてシビアな自己確認を行う場だと位置付けている。ポイントは3つ。「左足を上げて軸足でピタッと止めるところ。スーッとタイミングをとって降ろすところ。バンっと振り抜くところ。中でも一番大事なのは、左足を下ろして回転する時に、右足の親指内側をしっかりと地面に“ぶつける”感覚で体重移動ができているか。それだけしか考えてないです」

 その、“ぶつける”右親指こそ、山川穂高流本塁打論の鍵と言える。証拠に、スパイクの右足つま先の内側は、あっという間に穴が開く。「ひどい時は、1回の練習で擦り切れてしまうこともあります」。それほどまでに、強い衝撃がかかっているのだ。

 山川のスイングは、狭い歩幅の構えから、まっすぐ左足を上げ、踏み込む位置が非常に広い。「この広さのまま回転しても、回転しづらくて、全然体重が伝わらない」ため、ミートの瞬間に最も力の乗るステップ幅へと右足をずらしていくことで、飛距離が伸びるのだと、本人は解説する。通常、スイングの際、軸足は動かない方が理想とされている。動くと、頭の位置が動き、目線がブレてしまうからだ。だが、山川は、そのリスクよりも、より遠くに飛ばせる打ち方として、あえて現スタイルを選んだ。

 それもこれも、「ホームランを打ちたい」から。中学3年時、そう心に決めてから、常に「ホームランを打つためにはどうすればいいのか」「何が必要か」を自分で考え、追求してきた末に辿り着いたフォームなのである。目線のブレを阻止するためにも、とにかく大事なのは「下半身の強さ」だと痛感した山川少年は、青年となり、プロになった今日この日まで、試合前の打撃練習では、「全球ホームランを狙っています」。生きた球に対し、フルスイングを繰り返すことこそが、長いシーズンを乗り越える下半身強化へとつながると確信し、実践し続けている。

「2軍にいる時の4番打者の僕と、1軍での4番打者の僕が一緒になってきたイメージ」

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