指導者2年目、オリ田口壮氏の今・後編 今も持ち続ける「セに対するひがみ」

「セ・リーグに対してひがみ、うらやましさみたいなものがあります」

――ファームならではの楽しみ方があるのですね。

「どの選手がどう成長するのかが一番面白いところだと思います。若い子たちは日に日に進歩しますから。1か月経つと全然違う選手になっていることもあるので、それを見るのは楽しい。1軍から調整で来る選手もいるので、そういう選手が今、何をやっているのかを見るのも、ここでしか分からないことですよね。2軍の試合に来てもらえれば、応援している選手をじっくり観察できると思います。試合前と試合後には練習が観られますし、スタンドが小さいからグラウンドの声が聞こえます。コーチや選手が何を言っているか聞こえるぐらい、距離が近い。その近さが僕は面白いと思いますね」

――「野球の音」もよく通ります。

「トランペットや太鼓がありません。その意味では純粋に野球を観ながら、ボールがバットやグラブに当たる音や、選手の息遣いがよく聞こえるのも面白い。無音でやる野球が、僕は結構好きですね。また、スタンドを大きくしてもっとお客さんに来てほしい、もっと観てほしい思いはありますけど、これだけコンパクトだと、いつも満員になっているような感覚があります」

――最後に、パ・リーグの魅力も教えてください。

「魅力満載ですよね。パ・リーグは日本全国、綺麗に分かれています。地域性が必ずありますし、チームの応援の特色もある。バランスの良さが僕は面白いと思っています。パ・リーグを追いかけていただくと、日本全国の旅ができますからね。パ・リーグファンになって日本全国をまわっていただければ、北海道から九州まで行けますし、どこにでもおいしいものがある(笑)。力を持っている選手ももちろん多いですし、『この選手を見てくれ』という存在が必ず全チームにいる。セ・リーグもそうですが、パ・リーグには日本を代表する選手も多いですから。昔から言われる『人気のセ、実力のパ』というところは、パ・リーグの人間としては実力の部分を維持したい。パ・リーグの良さは、そういうひがみ根性(野球では負けないという)を皆が持っているところです」

――現役を退いた田口監督も、まだ持っているのですか。

「僕は今も持っていますね。セ・リーグに対してひがみ、うらやましさみたいなものがあります。それに対して負けたくない気持ちは、今の選手も持っているんじゃないかな。それをエネルギーに変えるのは歴史的なもので、遺伝子としてこのパ・リーグにずっと残ると思います。セ・リーグが嫌いなわけではなくて、うらやましいなという思い。いわゆる“パ・リーグ魂”というのは皆が持っていると思いますよ。その気持ちは熱さにも変わりますし、それがパ・リーグの良さではないでしょうか」

 真剣な眼差しから一転、対戦相手の監督やコーチらとの挨拶に応じる際、相好を崩して見せる田口監督の柔和な表情も印象的だ。試合後に行われたインタビュー時も同様で、質問に深く考え込むシリアスさと、織り交ぜるユーモアの使い分けが絶妙だった。撮影時には、こちらの意図をすかさず汲み取り、迅速に行動へ移す。機を見るに敏。現役を退いて6年を経た今も、そのイメージは首脳陣の起用に幅広く応え続けた現役時代と変わりがない。そして、選手の自主性を重んじ、大きく育てようとする姿勢は、球団最後の日本一を演出した、今は亡き仰木彬氏の育成方針と重なるものがある。

 田口監督は2軍で研鑽を積む選手の成長について、手応えを口にした。チームは、1996年以来となる来季のパ・リーグ制覇、そして、その先にある頂へ向けて動き始めている。当時の栄光を知る指揮官の下、改革元年を経たファーム組織から、次はどのような新戦力が巣立っていくだろうか。

指導者2年目、オリ田口壮氏の今・前編

(「パ・リーグ インサイト」藤原彬)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

RECOMMEND