楽天先発陣の躍進の裏側 「ゆとりのある投手運用」に迫る
例年より登板間隔を安定させ成績を向上させた則本
成績を向上させたのは岸だけではない。エースの則本も昨季キャリアハイの成績を残した。24.8%→27.0%→26.3%と推移してきたK%は昨季29.6%を記録。奪三振能力をさらに向上させた。この最大の要因は球速アップだろう。2014年から145.2キロ→145.0キロ→146.1キロと推移していたストレートの平均球速は、昨季149.2キロにまで上昇。則本は2016年オフに肉体改造を行ったとの報道もあり、それが球速アップにつながったと思われる。
ただ要因はそれだけではなさそうだ。岸は球数に注目したが、則本の場合は登板間隔に注目したい。3つ目の図は中6日を先発投手の基本的な登板間隔と考え、それより短い間隔で投げた日数をグラフの縦軸に加算していったものだ。中4日であれば6-4で、2日分グラフに加算されることになる。グラフが縦に伸びるほどに中6日で投げる場合に比べて蓄積疲労が大きくなっているといっていいだろう。
則本の中6日未満累積日数を年度別に見てみると、まず2014年のグラフが図抜けて高くなっていることがわかる。この年、則本はシーズンを通して中6日で運用する場合に比べて、24日分短い間隔で投げた。8月に2試合救援で登板しているためグラフが中盤で大きく伸びていることもあるが、それを抜きにしても中5日での登板がほかの年よりも多かったようだ。
この2014年に比べると、ここ3年は間隔を短くして投げることは少なくなっている。しかしそれぞれの年度で運用の特徴は異なる。2016年は2014年と同じように10登板に近づいたあたりでグラフに動きがではじめる。これは交流戦開幕と重なっており、不規則な日程へ対応するため則本を中5日で登板させるようになったのだろう。ちなみに2015年と2017年は交流戦に入っても中6日、あるいは中7日の登板となっており、間隔を短くすることを避けている様子がみえる。
2015年と2017年でも多少の違いは見られる。ともにシーズン終盤にかけて登板間隔が短くなることが多くなっているが、2017年に比べると2015年はグラフが急激に高くなっている。この年、則本は最後の5登板を中5日3回、中4日2回で終えており、終盤に間隔を保つことができなかった。2017年も終盤2度ほど中5日での登板があったものの、過去4年で最もゆとりがある間隔で登板できたシーズンだったことは間違いない。楽天首脳陣は中5日で不安定な状態で投げさせるよりも、中6日以上で安定した状態で投げさせることを優先したのだ。
ただ登板間隔にゆとりをもたせると、当然登板数が少なくなる。登板数の減少は投球回の減少につながるはずだ。しかし過去3年200回前後だった則本の投球回は2017年も185回2/3と、過去3年に比べて3回以上先発の機会が少ないにもかかわらず、大幅に減少しているわけではない。
冒頭でも説明したようにチーム全体でも楽天の先発はリーグ最高の投球回を記録。先発が多くのイニングをこなすことは救援の負荷を軽減する効果も生み、投手陣全体が好循環の中シーズンを過ごすことに成功した。楽天投手陣の活躍は決して選手だけによるものでない。こうした運用を実行した首脳陣の貢献も大きかったといえそうだ。
(DELTA)
DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。