伝説の「10・19」を振り返る ダブルヘッダーで生まれた死闘と残酷な結末
23分後に行われた第2戦は非情な結果に……
わずか23分のインターバルを経て迎えた第2戦、ロッテはビル・マドロックのソロでまたしても先手を取る。しかし、近鉄は6回にベン・オグリビーの適時打で同点に追いつき、7回には梨田と同様にこの年限りでユニフォームを脱ぐ吹石徳一と、シーズン打率1割台の伏兵・真喜志康永にそれぞれソロ本塁打が飛び出して一気に2点のリードを奪った。
だが、7回には岡部明一のソロと西村徳文の適時打でロッテが2点を奪い、試合は3-3の同点となる。追いつかれた近鉄は直後の8回にブライアントがソロ本塁打をスタンドに叩き込んで再び1点のリードを奪うと、8回には第1戦に続いて阿波野をリリーフに送り込み、完全に大黒柱にシーズンの命運を託すという形を取った。
この1点をなんとしても守り抜きたかった近鉄だったが、阿波野がロッテの4番・高沢秀昭に痛恨のソロ本塁打を浴びて試合は再び振り出しに。この高沢の起死回生の本塁打と、痛恨の失点を喫してショックを隠せない阿波野の姿の対比は、今なお多くのファンの脳裏に刻み込まれている。
さらには9回裏、「10・19」を象徴するシーンが訪れた。ロッテが無死一、二塁としたところで阿波野が二塁へけん制。ボールを受けた二塁手の大石第二朗が二塁走者にグラブで触れると、アウトが宣告された。この判定にロッテの有藤通世監督が抗議する。
その時点で試合時間は3時間30分を経過していた。当時は試合開始から4時間が経過した場合、そのイニングが終了した時点で試合を打ち切る規定があり、このまま引き分けで試合が終われば近鉄の悲願は露と消える。10分近い相手監督の抗議に、球場内が騒然としたムードに包まれた。
試合は延長10回に突入し、この回の近鉄は先頭打者が相手のエラーで出塁しながらも無得点に終わる。10回裏を迎えた時点で試合時間は3時間57分。近鉄ナインはわずかな可能性にかけて10回裏の守備に就くが、無情にもイニング途中に試合時間が4時間を超過した。この瞬間、西武のリーグ4連覇と、近鉄のV逸が確定することになった。
足掛け2試合、7時間33分にわたって演じられた死闘には、シーズンの行方を左右する試合に独特の熱量と、様々な勝負の綾が含まれていた。前年は最下位に沈んでいた近鉄が、紆余曲折を経て絶対王者・西武を追い詰めたシーズン全体の展開も掛け合わされてドラマ性が増長されている。平成の次の元号では、どのような伝説が球史に刻まれるだろうか。
(文中敬称略)
(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)