甲子園で裁いた初外国人審判、スジーワ氏が魅せられた日本野球の“バント”精神
日本で学んだリスペクトや感謝の気持ち「審判にもバントがある」
取材時は香港での国際試合で審判を務めていた。グラウンドで行われている試合を真剣なまなざしで見つめながら、審判の役割について教えてくれた。
「審判には選手や見ている人に、起こった出来事をお知らせする役割があります。だから、分かりやすいように声やジェスチャーは必ず大きくします。例えば打者が三振した際に打者を指して「He’s out」(彼がアウト)とお知らせします。もちろん「You’re out」(あなたがアウト)でも意味は通じますが、見ている人にとってはグラウンド内の誰がアウトになったのか一目瞭然ですからね」
審判は、試合中は1球たりともボールの行方を見逃すことはない。もし1回でも怠ってしまえば、試合が止まると同時に周囲からの信頼を失いかねない。試合全体を通じて大きく目立つことはないが、常に重要な責任を感じながら、自らの進退をかける思いでジャッジに励む。
野球は近年データの活用が進み、勝利のために高度な取り組みを行うため複雑化している印象もあるが、スジーワ氏は『試合の見方』について次のように話した。
「野球の試合を簡単に表すなら、グラウンドにいる人たちが1つのボールで遊んでいる状態です。審判は1試合4人、そして2チームの監督や選手たちが集まっています。特に国際大会では言葉や文化も違う国の人たちが一緒に遊んでいます。たとえ違うところはあっても『野球』で繋がることができるし、お互いをリスペクトできます。勝利も大事なのですが、その前に相手をリスペクトすることが人間として必要なことだと思います」
スリランカから日本にやってきて10年以上が経過した。野球はもちろん、日々の生活の中でも日本の文化や考え方に触れながら、常に自己成長をしてきた。本人が発する言葉からは、成長したい貪欲さと周囲の人々への感謝の両方が溢れ出ている。
「野球の試合は選手と審判、どちらが欠けても試合はできません。だからお互いをリスペクトします。僕が日本を好きな理由の1つは、このリスペクトや感謝の気持ちにあります。甲子園に行った時、多くの先輩審判員の方々が僕を推薦してくれたように、自分を犠牲にしても相手のことを考える。プレーヤーにバントがありますが、審判にもバントがあります。これが大和魂だと思います」
他者の気持ちを考えながら、常にリスペクトと感謝を忘れずに――。“大和魂”を大切にするスジーワ氏は成長を止めることはなく、今後も野球を通じて世界の架け橋として精力的に活動していく。
(豊川遼 / Ryo Toyokawa)