米レンジャーズでコーチ留学中 日本ハム・矢野謙次特命コーチの今
米国指導者に重なった大学時代の恩師の姿
アメリカで見た指導者の在り方に、矢野はある人物の姿を重ねたという。それは国学院大学時代の恩師、竹田利秋監督だ。かつて東北高、仙台育英高でも指揮を執った名監督は「選手は指導者の手腕を映す鏡だ」と話していたという。
「竹田監督は常に、選手がミスをするのは監督やコーチの指導の仕方が悪いからだと仰有っていました。監督やコーチが目立つ必要はない。主役であるべき選手が大きく成長して、注目を集めるようになればいい。それこそが指導者としての誇りになると仰有っていたんです。だから、アメリカでの指導者と選手の関係を見た時は、スッと腑に落ちる感じがありました」
もう1つ、実際に見て「なるほど」と思ったことがある。メジャーリーガーは決して練習をしないわけではない。むしろ「する」のだ。
「確かに、メジャーキャンプは全体練習の時間が短いです。でも、そこだけを切り取って『練習しない』と言うのは違いますね。彼らは、特にメジャーで長く活躍している選手は、みんな自ら進んで練習しています。例えば、秋信守はキャンプ施設に朝5時には来て、トレーニングをしたり打撃ケージで打ったりしている。アンドラスも全体練習が始まるより、ずっと早い時間に来て準備をしています。そもそも、みんなマイナーでの生存競争で振るいにかけられ、ここまで勝ち上がってきた選手。努力を積み重ねて今のポジションを手に入れた彼らは、メジャーにとどまる努力もしている。何をやるべきか、何故やるべきか分かった上で、効率よく練習できているんだと思いますね」
もちろん米国流がすべて正しいという訳ではないし、日本で受け入れられる訳ではない。だが、今は見聞を広め、指導者として自分の引き出しを1つでも多く増やすことを目指している。
「日米のいいところを組み合わせた方法で選手を指導することは不可能じゃないと思うんです。ただ、それにはやはり指導者として学び、実際に自分で経験して、自分なりの解釈を持って、どうやって選手に伝えるのかを考えなければならない。駆け出しの指導者と言っても、選手から見たらコーチはコーチ。経験の浅さは言い訳にはなりません。せっかくいただいた、このコーチ留学のチャンスを最大限に生かして、選手に還元していきたいと思います」
この1年間、レンジャーズで学ぶことは、矢野コーチにとって大きな財産となるはずだ。その財産をどう生かし、どんな選手を育成していくのか。“指導者”矢野の挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。
(佐藤直子 / Naoko Sato)