開幕11試合で9勝2敗 好調マ軍を変貌させたディポトGMのマル秘戦略
ディポトGMが提唱するストライクゾーンを自制する理念とは…
実際、数字を当てはめると、標榜する理念はより明解になる。ディポトGMが続ける。
「いい傾向と悪い傾向の二つを出し、その差異にプラスの方向の数字が出ていれば、投打ともにストライクゾーンを上手く使えているということ。で、(A)を投手の総奪三振数+打者の総四球数=いい傾向とし、(B)は打者の総三振数+投手の総与四球=悪い傾向とする。(A)-(B)から出した数字がプラスとなれば、チームの勝利機会が増えることになる。実際に数字を出してみよう……」
ディポトGMは、この算式を元にして2016年のマリナーズを解析してくれた。それによると(A)は1318+506=1824。(B)は460+1288=1748。差は「+76」と出る。前年の「-66」から一気に142も跳ね上がっている。2016年、この数値が6位だったヤンキースを除き、ジャイアンツら順に数値のいい8チームがプレーオフ進出を果たすという結果が出ている。
7年連続で20本塁打以上を打ち、3月のオープン戦で左中指の腱を痛めて長期離脱を余儀なくされているベテランのカイル・シーガーに、チームスローガンの“C the Z”について当てたのは4月1日のこと。彼はそれを好意的に受け取る一方で、経験から打撃のアプローチは時代的に変化していると言う。
「僕が入団した頃から振り返ってみると、以前は、毎年コーチングスタッフから言われることが違っていたような気がする。ちょっと前はゴロを転がせば、出塁のチャンスが生まれると聞かされた。それが今はフライボール革命とやらで、ゴロはだめ。打ち上げれば、チャンスが出てくる……。我がチームの『ストライクゾーンに自制を利かせる』も以前は『バットを振ることが難しいゾーンに来る球から自分を守る』という教えだった。だからその結果として三振もあるという考え方だった」
選手個々の考え方は必ずしも同じではない。だが、チームが最大の戦略として掲げる“C the Z(Control the Zone)”は、確実に浸透しつつあるのは確かなこと。これも、ズレンシック政権の前のバベジ時代から続いた暗黒の12年からの完全脱却を目指す、勇敢なディポトGMの創見から生まれた挑戦の一端である。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)