指導者、保護者に届けたい 投力低下を防ぐ、ヤクルト「投げ方教室」が喜ばれる理由
ゲームで競わせる チームに分けて作戦会議 勝敗がつく…「記録が伸びるのは嬉しいですけど、それ以上に…」
「コーチの話は目を見て聞こう」「返事は大きな声で」「相手が取りやすく、思いやりを持って投げよう」など、少年野球でも教わるような基本事項はもちろんだが、6年目を迎えた出前授業では年々、内容が“アップデート”されている。
ゲーム形式の遠投では、ボールスローの前に作戦会議の時間を入れる。どうしたら遠くに投げられ、得点を多く入れることができるかをチーム全員で考える。そうすることで、コーチに教わったことを復習したり、子供たち同士でコツを教え合ったりしている。
試合で競わすことで、勝ちチームと負けチームが生まれる。なぜ勝てたのか、なぜ負けたのかを振り返って考えさせている。
「記録が伸びるのは嬉しいですけど、それ以上に心の成長の声が聞こえる方がうれしいです。投げ方だけじゃなくて、気持ちの変化の部分です。負けた時に人は成長しますし、協調性の大切さを知っていれば、野球やスポーツだけじゃなく、どの分野でもいい方向に進むと思うんです」
子供たちの野球離れが進む中、各団体で様々な取り組みが行われている。東京都内、関東圏ではテレビの地上波で当たり前のようにプロ野球中継が流れる時代ではないため、野球に興味のない子供は当然、存在する。
「もちろん、この授業でヤクルトスワローズのことを知ってもらえれば、うれしいですよ。今日の夜、家に帰って、家族の会話の中で『野球』『ヤクルト』と出てくれるだけでいいです」
最後に河端さん、徳山さんはサインが入った「投げ方名人 認定書」を生徒にプレゼント。1人1人とハイタッチをして授業を終えた。4時間の授業を終えると、2人は給食の時間に招かれた。野球が大好きな子供たちが2人を取り囲んで、一緒に食事をした。
「ヤクルトこれから応援します」「僕は西武ライオンズが好きだけど、セ・リーグではヤクルトになりました」という会話もあれば、投手だった徳山さんが、「何キロ投げるんですか?」という質問に「ん? 150キロだよ」と答えると「えー!! すごい」と羨望のまなざしが向けられた。直接、声を聞けるのは貴重な機会だが、子供たちに憧れを持ってもらうこともプロ野球人にしかできない大事なことと思う。
ヤクルトの出前授業は、野球やスポーツをやっていない子にも、日常生活に生かせることを教えていた。野球やスポーツをしている子には、ボールを遠くに投げる方法だけでなく、夢を与えていた。純粋に子供たちが羨ましいと思えた時間だった。