中日小笠原が怪我から復活できた理由 転機は松坂とのキャッチボール「全てが財産」

転機は5月下旬、松坂とのキャッチボールだった

 2軍にいる3人の投手コーチ全員に聞いた。

「こればかりは個人で違うんです。小笠原(孝)さんは右足を斜め後ろに引いた位置からスタート。門倉(健)さんはほぼ真横。浅尾(拓也)さんは真後ろでした。色々試した結果、今の位置に落ち着きました」

 小笠原にはもう一つ悪癖があった。

「テイクバックでボールがすぐに上を向くんです」

 左投手はまず右足を上げる。この時点ではまだ右手のグラブとボールを握った左手は胸の前にある。そこからバッター方向に移動する際、グラブとボールは離れていく。グラブは前、ボールは後ろ。このテイクバックの際、通常、左手の甲がしばらく上を向き、ボールは下を向くが、小笠原はすぐにひっくり返ってしまうのだ。

「肩を痛めてからです。怖いから、力を逃がしてしまう。これでは肩はかばえますが、肘に負荷がかかる。これが最大の修正ポイントでした」

 5月下旬、転機が訪れた。

「リハビリ担当の方に勧められて、松坂(大輔)さんとキャッチボールをすることになったんです。以前もありましたが、今回はたくさん会話をしました。何を意識しているのか、今日の出来はどうなのか、とにかく質問しまくりでした」

 何度も肩を壊した経験がある右腕は無数の引き出しを惜しげもなく披露した。そして、ついに小笠原はヒントを得た。

「結局、腕が体から離れないこと。この1点を意識することに辿り着きました」

 さらに副産物として、他人のキャッチボールを見る目を養ったという。

「それまでは自分の投げ方ばかりを気にしていたのですが、今は相手の癖が分かるようになりました。1軍では梅津(晃大)さんと組んでいますが、毎日微妙に違うんです。良い時は上下のバランスが良く、軸回転が綺麗。他のピッチャーのキャッチボールを見て、気付いた部分を取り入れることもしています」

 野球の神様は背番号「11」に怪我と引き換えに「時間」と「聞く耳」と「観察眼」を与えた。今はトンネルを抜け出し、再びスポットライトが当たるマウンドに立っている。そんな小笠原がポロっとつぶやいた。

「松坂さんは絶対に野球を辞めない人だと思っています」

 思いが溢れ出る。

「春夏連覇、WBCで2大会連続MVP。僕の中では永遠のスターです。本当に大きな存在。全てが財産です」

 揺れる松坂の去就。今、その答えは野球の神様さえも分からない。ただ、これだけは確信している。平成の怪物の教え、魂、DNAが令和の若竜たちにしっかりと受け継がれていることを。残り7試合。まだ戦いは続く。

(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。テレビの情報番組の司会やレポーターを担当。また、ラジオの音楽番組のパーソナリティーとして1500組のアーティストにインタビュー。2004年、JNN系アノンシスト賞ラジオフリートーク部門優秀賞。2005年、2015年、同テレビフリートーク部門優秀賞受賞。2006年からはプロ野球の実況中継を担当。現在の担当番組は、テレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜12時54分~)「High FIVE!!」(毎週土曜17時00分~)、ラジオ「若狭敬一のスポ音」(毎週土曜12時20分~)「ドラ魂キング」(毎週金曜16時~)など。著書「サンドラのドラゴンズ論」(中日新聞社)。

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