「みんなでガンコウに行こうぜ」 漁師町の“幼なじみ軍団”岩内高が挑む全道制覇
人口1万2000人の岩内町は野球が盛んな町、町田監督「全道大会にもたくさん応援に来てくれました」
その「全道制覇」の目標には「Gからの挑戦」というサブタイトルもついている。「G」には「ガンコウ(岩内高校)」「岩宇地区(岩内町、共和町、泊村、神恵内村)」「郡部」「下克上」の4つの意味がある。全校生徒295人の小さな学校のでっかい挑戦だ。
ところが、5月20日に夏の甲子園大会の中止が決定した。「甲子園が目標だったので、気持ちの切り替えはなかなかできませんでした」と伊藤は当時の心境を吐露する。脇田も「去年の借りを返したいと頑張ってきたのに」と落ち込んだ。その後、北海道独自の大会開催が決まって、救われた。全道制覇の目標へ再スタートを切った。
元々野球が盛んな町だけに、1万2000人の町民の期待は大きい。OB会は毎年新入生に野球用のバッグをプレゼントし、昨秋の全道大会出場時には寄付を集め、今春最新の打撃マシンを寄贈した。成田監督は「これだけ町の方たちが動いてくれるところはないと思います。全道大会にもたくさんの方が札幌まで応援に来てくれました」と感謝する。
取材に行くと、このチームが地域から愛される理由がよく分かった。グラウンドの脇道を通る人がいれば、全員がプレーを止めて「こんにちは!」と満面の笑みで元気よくあいさつする。ちょうどその時通りがかった老婦人は、うれしそうに手を振り返していた。
残念なのは、2年生5人、1年生2人と新チームの選手数が少ないこと。この夏が終われば、他部からの助っ人選手を探さねばならない。そもそも地元で野球をやる小中学生が減少している。投手3本柱の伊藤は岩内第一、松屋は共和、脇田は岩内第二とそれぞれ別の中学のエースとしてしのぎを削ったが、その3校とも昨年すでに単独チームでの出場ができなくなった。
最後の夏は“ガンコウ”野球部の将来的な存続を懸けた戦いでもある。共和中時代に全国中学8強入りした松屋は「今の中学生に『岩内に入りたい』って思ってもらえるように、頑張りたい」と力を込める。脇田も「(岩内に)みんなで集まって良かった。自分たちの代で爆発したい」と快進撃を誓う。中学時代に全道制覇で町を活気づけた幼なじみ軍団の最後の挑戦が始まる。
(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)