出場辞退に「世間の声もあったのかな」 失意の主将を救った父・中山秀征氏の言葉
選手と会えるのは大会開幕後、「何を話せばいいか」茂久田監督が抱える葛藤
抽選会を終えるとインターネット上や新聞などで組み合わせの一覧が出た。そこには青山学院の名前はない。茂久田監督は今年のトーナメント表を見ることができずにいる。事情を知らないOBたちからは、多数の電話がかかってきた。
「部員が足りなくて出場ができなくなったのか、または部で不祥事を起こしたのか…など聞かれました。何もできないことが選手に申し訳ない。せめて1~2か月など前もってその方向性が分かれば、生徒らにも説明する時間があったのですが、歯がゆい思いです」
選手は突然のことで納得していないだろう。次に生徒たちに会えるのは約1週間後になるといい、その頃にはすでに東東京大会は始まっている。どんな言葉をかければいいのか、自問自答の日々が続く。
「後ろ向きなことを言ってもスタートは切れないので、ポジティブな話をしたいなと思っています。一方で他の学校が大会に出ているので、ポジティブと言っても、あまりにも理想とかけ離れたような感じにしても……。どういう気持ちで選手が来るかもわかりません。やる気にみなぎっている生徒もいるだろうし、そうでない選手もいるはず。今は悩んでいます」
大会の開幕が18日に迫る中、どうにか出場ができないかと、まだ諦めたくない気持ちもある。ただ、自分たちや学校だけの問題ではないこともわかっている。すべては生徒たちのために何ができるか、その姿勢だけは失いたくない。
「高校野球は人間教育の場です。礼儀や人間関係もそうですし、どのようにして壁を乗り越えていくかも重要なこと。この2年半の時間は大学や社会人になっても大きく影響してきます。私はOBたちが次のステージで活躍することを求めています。なので、厳しめに指導していることもあります。世の中にはどうにもならないことや、嫌なこともやらないといけないこともある。文句を言い続けても仕方がない。外に矢印を向けるんじゃなく、自分に矢印を向けられるように指導していきたいです。こういう局面こそ、自分が変われるチャンスなんだよ、と」
当たり前のことが当たり前じゃなくなっている社会情勢。向けられた“矢印”の先に、明るい未来が待っていることを願いたい。夏を奪われた悔しさを前を向くエネルギーに変え、創部138年の伝統校は次への歩みを進める。
(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)