投手が突然制球を乱す理由とは… 元メジャー藪恵壹氏が挙げる主な3つの原因
制球を乱す要因の1つは「投げ始めのタイミング」 バッテリーの相性にも注目
これに加え、疲労により生じるメカニックのズレが制球を乱す原因になることもある。「ボールがすっぽ抜ける」という表現をよく聞くが、ボールが浮いてしまう原因は「腕が振り遅れていることにある」という。
「試合中に疲れが溜まってくると、腕が高く上がらなくなったり、上がるタイミングがずれたりします。基本的に、ボールは高いところから低いところに向かって投げるもの。投げ始めの位置が高くなければ低めに投げることは難しいんですね。でも、試合中に疲労が溜まってくると、腕を上げるタイミングが遅くなってくるので、投球動作で上げた足を踏み込んで着地させた時、まだボールを持った手が一番高い位置に達していないことがあります。そうすると、腕を振り遅れてボールが抜けてしまう。振り遅れないためには、腕を上げる前の段階、投げ始めでボールを持った手を下げる時に少し早めのタイミングで動くといいでしょう」
藪氏が、この対処法を見つけたのは、メジャーに移籍した後だったという。日本よりも硬いメジャーのマウンドでは、投球動作で左脚を踏み込んだ時に地面から突き上げる感覚が強く、腕を振り遅れてボールが抜けることが多くなった。だが、メジャーで活躍する投手たちを観察してみると、テイクバックを小さくして早めに腕が上がるように工夫し、踏み込んだ足が着地する時にはすでにボールを持った手が一番高い位置まで来るようになっていた。「タイミングの取り方を調整することは大切ですよ」と藪氏は話す。
もう1つ、投手が制球を乱す時の要因として、捕手との相性が関係することもあるそうだ。調子がいい時、投手の視界に打者は入ってこず、的とするべきキャッチャーミットしか見えていないという。逆に、調子が悪い時には、キャッチャーミットにしっかり視点を定めて投げ込みながら、状態を整えていきたい。だが、捕手の中には、投手が投球動作に入っている間にミットの位置を動かす癖のある人もいるという。
「投手の立場から言うと、捕手にはミットを構えた位置のままにしておいてほしい時もあるんです。ミットを的としているんだから、ボールをリリースするまで同じ位置に構えていてもらった方が断然投げやすい。捕手が投手のコントロールを鍛えることは多分にあります。なので、投手が乱れ始めた時、捕手がどんな構えをしているか見てみるのも面白いかもしれません」
投手のコントロールだけに注目しても、いろいろな要素が絡み合っている。決して簡単に攻略できないからこそ、野球は面白いスポーツと言えるのかもしれない。
(佐藤直子 / Naoko Sato)