蔦監督から大谷まで 甲子園を描いた米話題映画の監督が語る、海外から見た高校野球

山崎エマ監督【写真提供:日活】
山崎エマ監督【写真提供:日活】

蔦監督から大谷翔平まで、高校野球に受け継がれるレガシーとは

 全編を通じて高校野球がたどってきた歴史や関係者の人間的な苦悩、その現実をありのまま紹介している同作品。終盤には甲子園中継に熱中症の注意喚起のテロップが流れる実際のテレビ映像なども挿入、今の高校野球に横たわる問題にも焦点を当てている。それは、古いものを残しながらも変わっていく高校野球の瞬間を捉えたかったからだという。

「あの中継映像は高校野球が変わっていく中だからこその矛盾で、客観的な目でそこは入れたかった。あの夏のあの時の空気感を、なるべく手を加えずにそのまま伝えたつもりです。日本社会も、高校野球も、今までのやり方だけでは立ち行かなくなってきている。蔦監督の時代は高校野球の在り方ってそんなに多くはなかったと思うんですが、今は水谷監督のように蔦監督の教えを受け継いでいる指導者、佐々木監督のように先進的なスポーツサイエンスを取り入れている指導者、いろんな環境が選択できるようになってきている。そのお二人も師弟関係で、佐々木監督から菊池選手、大谷選手まで受け継がれているものもある。前の世代の良いところと悪いところを見極めて、伝えるものは伝え、変わるところは変わらなきゃいけない時期に来ているのかなと」

 日本の高校野球に対して、米球界からの批判的な声は多い。数年前には甲子園での投手の球数問題がセンセーショナルに報じられた。だが、それは高校野球の一面しか知られていないからだと山崎監督は言う。

「高校野球に限らず、日本って海外から見ると『スシ! ニンジャ! サムライ!』みたいに、まだまだ謎な部分が多い。みんな黙々と働いて、感情を表に出さないみたいなイメージが先行して、その背景とか全体像はほとんど知られていない。高校野球も球数問題や坊主頭という部分だけが報じられて、松坂大輔選手や田中将大選手が怪我をしたときも『日本の高校野球のせいじゃないのか』と言われたり。それだけに映画の反響は大きかったですね。『日本人の大の大人も、泣いたり怒ったりするんですね』と。MLBでもプレーされたニコースキーさんがこの映画を大変気に入ってくださって、日本に行くメジャーリーガーは絶対に見るべきだ、MLBの選手が日本に来たときに、そのルーツが少しは理解できるからと言っていただけました」

 今回、甲子園が中止となったタイミングでの日本公開については、大きな意味を感じている。「甲子園のない夏に、あらためて高校野球の良さを感じてもらいたい。一度途絶えて、甲子園というものが当たり前ではなくなって初めて、それがやっぱり大切なものだったと考えてもらえる機会になれば」。この作品を機に、変わりゆく高校野球のなかでも、変えてはいけないものを考えていきたい。

【動画】大谷翔平、菊池雄星も絶賛 米話題の映画『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』の予告編映像

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