ベテランの引退は「周りに気を遣わせたらダメ」 プロ21年の森野氏が説く“引き際”

今季限りで現役を引退した元同僚の吉見一起は「素晴らしいやめ方だった」

「もっと早く電話をかけてくれてもよかったのに」

 今だからこそ、森野氏は笑って振り返る。やはり自分から率先して「やめます」とは言いにくいもの。かと言って、周囲は花道を汚すまいと配慮してくれるだけに「気を遣わせることになってしまう場合がある」とも。森野氏の場合は、森監督が水を向けてくれたことで、その後の引退試合の準備なども比較的スムーズに進んだ。

 ただ、ベテランになればなるほど、決断のタイミングが難しくなるのも理解できるという。「実際、俺も体がしっかり治ればまだできると思っていた。諦められない気持ちはどこかにあるのは間違いない」。チームを長年支えてきた功労者に対して球団側も無下にするわけにはいかず、決断が後手に回るケースも。それを避けるためにも「1年前に決めておくくらいでいいのかな。その年でやめるのか、さらに1年やりたいのか。球団に伝えておくべきだと思う」と持論を語る。

 今季も、球史を彩ってきた名選手たちが現役のユニホームを脱いだ。中日で同僚だった吉見一起投手の決断は「素晴らしいやめ方だった」と森野氏。今年36歳の右腕が引退会見で語った言葉に、胸を打たれたという。

「吉見は会見で『チームの中で競争に勝つことができなかった』と言った。それは、自分で自分の順位づけができている証拠。歳をとってくると、意外と自分の順位が分からなくなる。だから、やめられなくもなる」

 もちろん決断のタイミングは選手それぞれで、正解はない。余力を残して第一線を退く場合もあれば、ボロボロになるまでとことん現役を続ける場合もある。ただ森野氏は「周りに気を遣わせるのはダメだね」とも。その引き際こそが生き様を象徴するだけに、余計に選手たちは悩むのかもしれない。

○「使いこなされる力。名将たちが頼りにした、“使い勝手”の真髄とは。」
 10月30日に講談社から出版された森野将彦氏初の著書。星野仙一氏、落合博満氏ら6代の監督を通じてレギュラーであり続けた“使い勝手の良さ”とは――。21年間のプロ人生で培った哲学には、ビジネスにおいても役立つ言葉が散りばめられている。

(小西亮 / Ryo Konishi)

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