「追随するなら独自の判断を」 米球界を見た有識者が語るDH制導入の是非
投手が「本気で打つことができないレベルになった」
神田教授によると、グローバルな視野で見ると、野球は極めて珍しいところがある競技だという。「他の多くのスポーツでルール変更が行われる場合、国際競技連盟が何月何日から変えますと号令をかけ、一斉に変わるのが普通です。ところが野球は、MLBが独自の判断で変え、NPBがそれを横目で見て1年後か2年後に追随するケースがほとんど。WBSCが旗振り役をしているわけではない」と指摘する。
そのMLBは新型コロナウイルスの感染拡大をうけ、選手の負担軽減のため、2020はナ・リーグもDH制を採用。もともとDH制のア・リーグと足並みがそろう形になった。「NPBは来年見送っても、MLBが両リーグDH制となったら、結局追随する可能性が高い。ならば、MLBを追いかけるだけでなく、日本の状況に合わせて独自に判断してもいい。やってみて、また戻すのも“あり”でしょう」と神田教授は柔軟なチャレンジを求める立場だ。
1発勝負のトーナメント戦の高校野球であれば、「4番・投手」として投・打・走に全力プレーを求めることもできるかもしれないが、「大谷翔平投手の二刀流が注目されてはいるけれど、MLBやNPBは、自分が投手として登板している試合で本気で打ったり走ったりはできないレベルいなってきているのだろう」と神田教授は見ている。
実際、大谷がMLB入りする際も、「普通に投手が打席に入れるナ・リーグの方が適切」という見方もあったが、実際に本人が選んだのはDH制のあるア・リーグのエンゼルスだった。
「かつてメジャーで投手としてシーズン11勝を挙げるなど活躍し、後に野手に転向したリック・アンキール氏は当初から『オオタニは絶対にア・リーグに行くべきだ。二刀流の才能を生かすにはDH制しかない』と断言していた」と神田教授。登坂日は投球、野手として出場する日は打撃と走塁に専念するスタイルでなければ、二刀流の成功はおぼつかないということだろう。
一方、NCAA(全米大学体育協会)の野球ルールでは、ユニークなDH制が採用されているという。打撃が得意な投手が先発する場合、スタメンに「P/DH」(投手兼指名打者)として登録し、投手として降板後もDHとして打席に立つことが可能。日本のパ・リーグなどでは、打撃のいい先発投手がバッティングオーダーに名を連ね、試合途中で降板した場合、後続の救援投手たちも代打を送られる以外は打席に立つしかなく、それに比べるとNCAAの方が起用に幅ができる。こうした例も参考にして、日本独自のDH制が考案されてもいいのかもしれない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)