「査定は一緒でいい」 敗戦処理から最優秀中継ぎに成長した中日右腕の“傷の結晶”

「入団以来、僕はいつも登録抹消が隣合わせでした」

「ソブはよくやったよね。でも、本当に凄いのはよくこの地位に来たってこと。敗戦処理から這い上がるのは大変なのよ。確かに勝ちパターンの投手はプレッシャーもあって厳しい。でも、助け合いができる。負け試合のピッチャーは炎上したら、基本は放置で即2軍。それを繰り返しているうちにクビだからね」

 川上氏の言葉に祖父江が大きく頷く。

「首脳陣から開幕前にロングリリーフと言われました。最初は勝ちパターンではなかったんです。でも、(岡田)俊哉の不調や又吉(克樹)の怪我が重なって、7回を投げるようになりました。調子も良くて、無失点を続けていましたが、1回やらかしているんです。8月の巨人戦で1アウトしか取れずに2失点して、その後を福(敬登)に助けてもらいました。何とか勝ったので、僕も生き残れたんです」

 助け合いの事例は過去にもある。

「タジ(田島慎二)の開幕連続無失点記録の時もナゴヤドームの巨人戦でフォアボールを連発して満塁にした後、岩瀬(仁紀)さんがゲッツーで切り抜けてくれました」と祖父江が言えば、「岩瀬さんもルーキー時代にピンチを招いて代わって、(落合)英二さんが救うケースが何度もありましたよ」と川上氏が続けた。

「でも、敗戦処理は違います。ブルペンで最初に肩を作って、行く行かないで何回も心が揺れて、また作って、ヘロヘロの状態で登板します。その頃、相手はノリノリ。そりゃ、やられますよ。でも、どのみち負け試合なので、無駄なリリーフは出さない。結局、大量失点してサヨナラ。入団以来、僕はいつも登録抹消が隣合わせでした。今年は疲れを心配してくれますが、全然です。勝ちパターンは準備もしやすいし、出番も読めますから。正直、去年までの方がきつかったです」

 これまで祖父江は何度も打たれ、見放され、落とされた。ファンが席を立ち、グラウンドに背を向ける光景は今も脳裏に焼き付いている。

「敗戦処理の1アウトも、勝ちパターンの1アウトも同じですよ。査定は一緒でいい」

 様々な経験を積み重ねた男の言葉は重い。通算317試合。この中で負った数々の「傷の結晶」が今、眼光となって放たれている。だから、鋭いのだ。切られても、切られても、立ち上がる竜の侍。彼はこれからも腕を振る。ただひたすらに目の前のアウトを取るために。

(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。テレビの情報番組の司会やレポーターを担当。また、ラジオの音楽番組のパーソナリティーとして1500組のアーティストにインタビュー。2004年、JNN系アノンシスト賞ラジオフリートーク部門優秀賞。2005年、2015年、同テレビフリートーク部門優秀賞受賞。2006年からはプロ野球の実況中継を担当。現在の担当番組は、テレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜12時54分~)「High FIVE!!」(毎週土曜17時00分~)、ラジオ「若狭敬一のスポ音」(毎週土曜12時20分~)「ドラ魂キング」(毎週金曜16時~)など。著書「サンドラのドラゴンズ論」(中日新聞社)。

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