田中将大の楽天復帰はなぜ実現した? ヤ軍との交渉決裂、三木谷オーナーの大号令
立花球団社長「スポーツ界は正直申し上げて、非常に厳しい状態」
プロとして日本では楽天、メジャーではヤンキース一筋に7年ずつプレーした田中は、ヤンキースに対して愛着もあれば、MLBきっての名門として勝つためにあらゆる努力と資金投入を惜しまない姿勢に共感もしていたのだろう。
一方、会見に同席した楽天の立花陽三球団社長は「スポーツ界は正直申し上げて、非常に厳しい状態です。多分、今季もかなり厳しい状態でスタートすると思います。石井(一久)GM兼監督と僕で話し合い、三木谷(浩史)オーナーに相談に上がったところ、迷うことなく『絶対獲れ』という言葉を頂いた。この決断はなかなかできる環境下になく、本当に厳しい判断だったと思います」と語った。
試合数減、開幕当初の無観客、その後の入場制限などで、昨季の各球団の経営は困難を極めた。楽天の場合も、昨季オフの契約更改の席上、各選手に昨季の収支に関するデータを開示し、理解を求めた経緯もある。球団オーナーであり、親会社のトップでもある三木谷氏の大号令がなければ、田中獲得は実現しなかっただろう。
さらに、米国の新型コロナウイルスの感染拡大は日本以上で、2月中旬に始まる予定の春季キャンプの延期も取りざたされている。そもそも、レギュラーシーズンが例年の143試合から120試合に減った昨季のNPB以上に、162試合から半減以下の60試合となったMLBは深刻だ。どれだけ試合が開催されるか予断を許さない状況は、楽天へ向けて田中の背中を押したのではないだろうか。
石井GM兼監督は「東日本大震災から10年という大事なシーズンに、田中選手が導かれるようにもう1度楽天生命パークのマウンドに立ってくれる。そういう運命を背負った、特別な選手なのかなと感じている」と感慨深げに語ったが、仮にMLBの状況が改善され、特にヤンキースが再び獲得に乗り出すようなことになれば、田中が2022年にMLBへ復帰する可能性は十分ある。だからこそ、田中のこの1年を目に焼き付けたい。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)