「サッカーのまち」に野球の風 “非エリート軍団”藤枝明誠が躍進した練習法とは?
多くの時間を割く守備練習は実戦を想定、光岡監督が説く「考える力」
藤枝明誠は私立だが、全国区の選手をスカウトしているわけではない。左右の両エース、小林輝投手と山田蓮投手は、それぞれ藤枝市と隣接する島田市と焼津市の中学校から進学し、主力のほとんどが静岡県内出身。愛知県で生まれ育った川瀬主将は、光岡孝監督の知人の紹介で藤枝明誠を選んだ。
選手たちは「力がない」と自覚していても、決して「勝てない」とは思っていない。限られた時間で勝てる方法を探す。まずは、練習内容。守備練習が及第点に達するまで、打撃練習に入らない。新チーム当初は練習時間の9割近くが守備だったときもあったという。県大会を勝ち抜いた今春でも半分ほどは守備に時間を割いていた。4番に座る川瀬主将が、その理由を説明する。
「自分たちは体が大きいわけではないし、打つ力もない。守らないと勝てない。これくらいやるのは当たり前です」。
ノックでは常に走者をつける。そのほとんどで、複数の走者を置く。試合に近い緊張感を作り出し、あらゆるパターンを想定するためだ。そして、ケースによって細かく目標タイムを定めている。例えば、「二塁走者の本塁到達時間は6.7~7秒」。走者をアウトにするには、「外野手が打球を捕るまでに3.0秒」+「捕球からバックホームまで3.5秒」+「捕手が走者にタッチするのに0.2秒」=「目標は6.7秒」と設定。ノックでタイムを計り、目標までに何が足りないかを身に付けている。
徹底した守備力強化の土台には、光岡監督が歴代の藤枝明誠ナインに植え付け、最も大切にしている「考える力」がある。選手にその必要性を説く。
「140キロを超える投手がいない。プロや社会人から声がかかる選手がいない。雨天練習場がない。ないものや、できないことを言いだしたら切りがない。だからこそ、考える力が必要。体力や技術には限界があるが、心や考える力には限界がない。野球は2時間の試合でボールが動いているのは10分で、残りは考える時間。考える時間で勝敗の差が出る」。