菊池雄星、独特のレトリックに込めた投球の奥儀 “風邪の予兆”が高めた修正能力
子どもの時は風邪を引くのか分からないが「大人になるとひき始めが分かりますよね」
序盤のもたつきを相殺できるのが今季の菊池である。5月半ばのタイガース戦では気負いが一因となり、横振りになった体をテイクバックで修正しているが、この日の問題点はどこにあったのか。あえて水を向けると、めずらしく、思っていることを効果的な言葉に変換するレトリックを使って説明した。
「小さい頃はどこから風邪をひくのかって分からないですけど、大人になるとひき始めが分かりますよね。僕の場合は、喉からよくきます。喉にきたら風邪をひくなっていうサインで、よくのど飴をなめているんですけど。のど飴をなめているから風邪をひかないっていったらそうでもなく。ピッチングって、そんな感じかなと思います」
難解ではあるが、「風邪の兆候」も「のど飴の効果」も、仮説は立てられる――。
初回、1番のヘルナンデスに四球を与えると、菊池は右足の着地点までスパイクを交互に出しステップをチェックした。制球を乱した際の修正ポイントの一つに挙げられる、歩幅の確認は「のど飴」を求めた時ではなかったか。それでもひきかけの風邪は進行する。「連動して出てきてちょっとバランスが崩れていた気はしています」。右足を挙げた立ち姿の微妙な反りがその症状だった。
菊池は、問題点に関して「それが分かれば1球で直せますから」と焦点化を嫌ったが、件のレトリカルな表現は、投球の奥義に触れる“あや”と言えば穿ちすぎだろうか。
いかなる日の投球も、担保になるのは体調の維持である。
「コンディションがベストの試合はなかなか多くはないと思うので、こういう試合をいかに立て直して1イニングでも長く投げる考えにすぐ切り替えました。結果的に7回までいけてゼロで抑えられたので、貴重な試合になったのではないかなと思います」
止まらない汗が一因となったバランスの崩れを克服し試合を作った菊池雄星。
ここまで足りなかったのは、「運」。これから先、左腕は、それを味方につけられるか。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)