コロナ禍に負けないチーム作りのヒント 弘前学院聖愛を甲子園に導いた改革とは
野球人口の拡大にも貢献、小学生向け動画を自分たちで制作
野球人口減少の歯止めの一助になろうと、シーズンオフには地元の小学生や未就学児、まだ野球に触れたことがない子どもたちへの野球教室にも力を入れる。昨年の全国一斉休校期間には、野球教室に参加した少年野球チームからこんな依頼があった。「子どもたちが自粛に飽きている。プロ野球選手のユーチューブを見るように言っても、あまりに遠い存在で見ない。聖愛の選手たちに動画を作ってほしい」――。原田監督は(1)時間はひとり30秒、(2)小学生に効果があるもの、(3)小学生が喜ぶものという3つの条件をつけて部員に提案した。
打撃編、守備編、トレーニング編、生活編など、自分で分野を選び、撮影・編集も自分で行い、ひとり1作品を提出。寝転がってのスナップスローや部屋の整理整頓など内容は多彩で、テロップに漢字があれば仮名を入れるなど、「喜ばせようとするクオリティが高かった。すごいですよ」と原田監督が驚く動画が次々と上がってきた。「選手は『めっちゃ時間がかかった』と言っていましたが、とても喜んでいただいた。小学生が喜び、うちの選手にとってもいい経験になり、ウィン・ウィンです」。交流は地域の子どもたちのためになっているだけでなく、部員たちの成長にもつながっているという。
こうしたさまざまなチャレンジは「そんなことばかりやっているから勝てないんだ」という心ない声に変わることもある。それは原田監督の耳にも入る。「そういう意味でも8年は長かった」と言う。3大会連続で青森大会決勝に進み、原田監督は「今年も負けたら、もう、一生ねぇだろうな」と思っていたと胸の内を明かす。だが、途中から吹っ切れて、気持ちが楽になった。目の前では選手たちが相手に食らいついている。気づけば、甲子園出場を決めていた。
8年ぶりの聖地で、6日遅れの初戦。白星をつかむことはできなかったが、9回の追い上げには諦めない姿勢が詰まっていた。「目的は人間形成で、目標は甲子園。人としての部分と野球。“論語と算盤”です」。原田監督の指導方針はこれまでも、これからもブレることはない。きっとまた、チャレンジを続け、甲子園に帰ってくる。
(高橋昌江 / Masae Takahashi)