知的障害児は甲子園を目指せるのか 大人の努力次第で広がる子どもたちの可能性
世田谷泉高部員も充実の笑顔「いつもと違う表情だった」
練習後、「甲子園夢プロジェクト」から参加した子どもたちは「色々な子と野球ができて楽しかった」「試合形式でできたのがうれしかった」「タイミングの取り方や外野での動きなど勉強になった」と喜びや充実の言葉を並べ、大きな笑みを咲かせた。投げ方を指導したりノックを打ったりと大忙しながら終始笑顔が絶えなかった荻野さんは「どんどん上手くなっている。もっと楽しく野球をするにはもっと上手くなること。練習を頑張りましょう」と、子どもたちの成長を労う。
この日の練習から収穫を得たのは、知的障害がある子どもたちだけではない。世田谷泉高の生徒もしかり、だ。3部制をとる定時制高校のため軟式野球部として部員全員が一緒に活動できる機会は少ない。部員たちが合同練習開催を知ったのは当日だったというが「いつもと違うメンバーで野球ができて、いい刺激になった」と話す。顧問を務める石川さんは「生徒たちがいつもと違う表情でした。野球を通じていろいろな人に接し、いろいろなことを感じてほしい。大人が多くの言葉を投げかけすぎずに、子どもたちの感覚を大切にしていきたいと思います」と手応えを語った。
打球をグラブに収め、一塁へ送球してアウトを奪った時に見せる自信にあふれた笑顔。外野へ打球を放ち、必死で走って二塁ベースでセーフになった時のガッツポーズ。逆転のホームを踏んだ仲間を、ベンチ前に立って大喜びで迎える姿。純粋に野球を楽しむ様子に、障害があるなしの違いはない。久保田さんは「子どもたちにとっていい経験になれば。野球で自信が持てると、学校や仕事でも自信を持って行動できるようになる」と力を込める。
次回は12月4日に愛知県にある同朋高校で硬式野球部と合同練習を行う予定だ。来年3月には、千葉で行われる少年野球大会でエキシビションとして試合をする予定もある。着実に活動の輪を広げる「甲子園夢プロジェクト」。知的障害がある子どもたちにはできないと決めつけるのではなく、どうやったらできるかを考える。子どもが持つ可能性を信じ、いつもより少しだけ多くの努力を厭わない大人が増えることが、プロジェクトのカギを握ることになりそうだ。
(佐藤直子 / Naoko Sato)