“ハンカチ王子”と同時に引退 静岡商「ほほ笑み王子」が描く第2の人生とは?
現在は社業の他、母校で後輩投手を指導している
早実・斎藤佑樹と駒大苫小牧・田中将大投手(楽天)の投げ合いで決勝戦が再試合となった2006年夏。静岡商の2年生だった大野さんはエースナンバーをつけて聖地のマウンドに立った。さわやかな笑顔が話題となり「ほほ笑み王子」と呼ばれた。大野さんは「あの頃は王子を付ければいいという雰囲気でしたね」と笑う。本家の「ハンカチ王子」ほどではなかったが、「ほほ笑み王子」もファンの記憶に刻まれている。その後、2人の王子は早大でチームメートになった。
大野さんは1か月間の研修を経て、2月にヤマハコーポレートサービスの「物流事業部」へ配属された。ヤマハの商品を滞りなく消費者へ届けるために調整し、万が一、トラブルが起きたら対応する。製造から配送まで全体を把握できる部署での勤務に「広い視野を持って知識を吸収していきたいと思います。まだ半分は研修なので、これからやりたいことを具体的に見つけていきたいです」と意気込んでいる。
新たなスタートを切った第2の人生では、社業の他にも目標がある。「母校を何とか強くしたいです」。大野さんは現役引退後、月に1、2回、母校の静岡商の練習に参加している。「自分がやってきた練習メニューや考え方を色々と提案して、後輩投手陣をレベルアップさせる力になりたいと思っています。やりがいと楽しみを感じています」。1年秋から静岡商のエースとしてチームを甲子園に導き、早大、ヤマハと野球界の王道を歩んできた。身長170センチと小柄ながらアマチュアの第一線でプレーできた知識と経験を惜しみなく後輩に伝えるつもりだ。
静岡商の指揮官は今年度から、大野さんが師と仰ぐ曲田雄三監督が務めている。高校時代のコーチで、エースの心得を叩き込まれたという。大野さんは「エースは誰よりも練習する、全てが野球に通ずるという熱量が技術の向上につながる。曲田さんに築いてもらった土台がなければ、ヤマハで32歳まで野球を続けられなかったと思います」と感謝する。
静岡商は県内指折りの伝統校だ。元巨人・新浦壽夫さん、元近鉄・大石大二郎さんやDeNA・高田琢登投手ら多数のプロ野球選手を輩出し、甲子園でも春は優勝、夏は準優勝した経験がある。だが、大野さんが出場した2006年夏を最後に聖地から遠ざかっている。「母校を強くすることに今は一番、熱くなっています」。かつて甲子園を沸かせた「ほほ笑み王子」は伝統校を復活させ、笑顔で聖地に立つ後輩たちの姿を思い描いている。
(間淳 / Jun Aida)