大谷翔平「来た球を打つ」 菊池雄星から豪快弾、18文字のHR談話に隠れた“知の準備” 【マイ・メジャー・ノート】第2回

2019年、菊池雄星とメジャー初対戦となった試合の第3打席では、初球のカーブを本塁打にした【写真:Getty Images】
2019年、菊池雄星とメジャー初対戦となった試合の第3打席では、初球のカーブを本塁打にした【写真:Getty Images】

若き球児たちの後ろから大谷の声に耳を澄ませば…

 さて、ここで“文脈”である。

 大谷は1番を打つアップトンへの3球を見届けた。決め球は鋭く曲がるスライダー。2019年の前回対決では初球のカーブをスタンドに運んでいる。単純に、“半速球”の入り球に両者の駆け引きがイメージできる。で、「それだけを考えていた」は、「速球が甘めにくれば躊躇なく射抜く」と展開できるのだが、この推測を補って余りあるのが、「過去のデータ」、「捕手の傾向」、さらに「見逃してストライクになった場合」と「ボールになった場合」、また「打って出てファウルになった場合に次はどの球種がくるか」……の“知の準備”だ。確かなのは、大谷が頭を整理して万端で初球を待ったということ。

 ゆきがかりで、もう少し分け入ることにする。

 2年前に他界した野村克也氏は自著『野球論集成』の中で、ネクスト・バッターズ・サークルでのルーティンとして、2段階を経る“読み”があることを明かしている。縦横に巡らせたシミュレーションから狙うべき一球を決めると、力まないために自戒の訓とする「欲から入って、欲から離れよ」を言い聞かせて完了するという。もし、大谷があの打席で、気持ちのバランスを欠いていたなら、結果は違ったのかもしれない。技術の巧拙を超えた側面は、かくもスリリングで、実に味わい深い。

「18文字をめぐる小さな冒険」は、隠れた心理を読もうと意気込んだわけでもなければ、取材の根幹としてあるべき発想になじませようなどと無理をしたわけでもない。真の動機は、真剣な眼差しを向ける若き球児たちの後ろから、大谷翔平の声に耳を澄ましたかったということ。ただそれだけ。

○著者プロフィール
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。シアトル在住。【マイ・メジャー・ノート】はファクトを曇りなく自由闊達につづる。観察と考察の断片が織りなす、木崎英夫の大リーグコラム。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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