勝利至上主義ならば「全員を使うべき」 智弁和歌山・高嶋仁前監督の少年野球論

智弁和歌山・高嶋仁名誉監督【写真:編集部】
智弁和歌山・高嶋仁名誉監督【写真:編集部】

勝利至上主義のチーム方針が生む難しさ

 野球を「嫌い」になってしまう理由はいくつかある。勝利から学べることも多いが、こだわりすぎると試合に出られない子が出てくる。試合に出られずチームを去る子も少なくない。

「勝利を求めることはいいことです。喜びが増えることもわかる。でも、勝つんだったら全員を使って、勝てと言いたい。レギュラーばかり使っていては、補欠の選手は辞めていってしまう。私が48年間、監督をできたのは、補欠を大事にしてきたからだと思っています」

 智弁和歌山は1学年の人数を約10人に絞っているのは有名な話だ。高嶋氏は少数精鋭でチームを作ってきた。人数が少ない分、控え選手が打撃投手など“裏方”にまわるケースもある。そんな選手の気持ちを尊重してきた。

「補欠がいないと練習できないんですよ。4番打者が育たない。レギュラーには『誰のために野球をするのか?』と聞いてきました。自分のため、チームのため、学校のため……。私は『4番のために投げてくれている補欠ために野球をしてほしい』とうるさく言っています」

 周りより下手くそでも構わない。それでも、使う場所を考えてあげるのが指導者の責務だ。高嶋氏は監督時代、夏の甲子園出場が決まった時、一番最初に考えるのが、レギュラー以外の選手の起用方法だった。

「甲子園で7イニング目から使うとか、守備だけで使うとか、ね。伝令になるかもしれません。だから、1回戦で負けては困るんです。勝ち進めればチャンスがありますから。負けてしまって、使うことができなかった選手がいたら私は謝ります」

 高嶋氏自身も海星(長崎)で過ごした高校時代、故障から投手を諦め、外野手に転向した経緯がある。試合に出られない辛さを身を持って感じていた。だから、控えの選手の気持ちが痛いほどわかる。

 野球は試合に出てこそ、その面白さがわかる。コロナ禍で思うように動けないが、高嶋氏は講演や野球教室など呼ばれれば出来る限り、野球振興に携わっている。そして「野球は好きか?」と子どもたちに問いかける。1人でも多くの子が、迷いなく手を上げるために、まだまだ野球人としての闘争心は消えていない。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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