「夜寝られへんかった」異例の退任表明した阪神・矢野監督の開幕までの2か月
湧き出る自信「退任発表がマイナスに働くような選手たちではない」
「後悔する人生を歩んでほしくないと選手にずっと伝えてきて、手本になりたいと思って監督を続けてきました。選手に『辞めると明言してから、さらにやる気になっている』『最後の1年をやり切ろうとしてる』と感じてもらえるような姿勢を示していきたいです。それに、退任発表がマイナスに働くような選手たちではないと自信を持っています。この3年間、選手たちの成長を誰よりも見てきましたから」
矢野監督が口にする選手やチームの成長は、結果にも表れている。就任1年目の2019年は3位、2020年は2位。そして、昨シーズンはリーグ優勝こそ逃したものの、ヤクルトにゲーム差なしの2位で終えた。もし昨シーズン優勝していたら、矢野監督は続投要請を断っていた可能性があった。
「監督の要請を受けた時、どうしようか悩みました。もし、昨シーズン優勝していたら、監督を辞めたかもしれません。優勝を逃して、続投のオファーを受けたのに引き受けないのは、『責任を持て』と選手に言ってきたことと矛盾すると思いました。責任を果たそうと。ただ、監督を2年、3年と続けるのは想像できませんでした。1年と決めたら、責任を全うできると考えました」
続投要請を承諾して、最後の1年を戦うと決めた矢野監督。決断する上で頭に思い浮かんだ選手がいた。原口文仁捕手。2019年に公表した大腸がんを乗り越えて再びプレーする姿を見て、決意を強めた。
「原口は元々、野球への取り組み方がすごい選手でしたが、病気を克服してから進化しています。死を覚悟した人間にしか分からない経験をしたと感じています。多くのプロ野球選手は『まだ現役を続けられる』『まだ生きていける』と無意識に思いながらプレーしています。原口の姿、生き方には覚悟があります。続投要請を引き受けて、あと1年、監督を目いっぱいやり切ることが覚悟であり、責任であると考えています」
○Full-Countでは今シーズン限りで退任する阪神・矢野燿大監督の独占インタビューを全3回で掲載。第2回は3年間の監督生活で生まれた変化や、最後の1年に向けたスローガンについて伝える。
(市川いずみ / Izumi Ichikawa)
市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。