大谷の豪快弾と守備シフトの相克 ベースボールは失われた魅力を取り戻せるか 【マイ・メジャー・ノート】第5回

エンゼルス・大谷翔平【写真:AP】
エンゼルス・大谷翔平【写真:AP】

メジャー平均打率は下降傾向が顕著だった

 近年、「ディフェンシブ・シフト」(守備隊形)がしばしば取り上げられている。その多くは、上昇するシフト率が低下する平均打率と因果関係にあるとする見方だが、数字を担保にしただけの展開からは、その実相は見えてこない。

 今回は、【マイ・メジャー・ノート】第1回目で展開した大谷翔平の超特大弾を入り口に、「守備シフト」のもう1つの側面を考える。

 昨年7月9日(日本時間10日)のマリナーズ戦で、大谷はメジャー通算80本塁打となる推定飛距離463フィート(約141メートル)の特大弾を放ったが、マ軍内野陣が全打席で敷いた極端な右寄りの隊形――三塁手は二塁ベース寄りに、遊撃手は超えた二塁ベースの後方に、二塁手は定位置から右へ動き芝に入って構えた――に阻まれ、通算315本目の安打となり得た第4打席の痛烈な当たりは二塁ゴロで片付けられた。

 打者の打球方向の特性によって守備位置を大幅に変更するシフトは、頻度に差はあるものの、今や30球団が導入する戦術の一部となっている。2014年からのビデオ判定導入で、各球場には高性能のカメラが設置され、データの深度は増した。2015年、MLB全体のシフト率は全投球の9.6%だったが、大谷の豪快弾が出た2021年7月には32%にまで上昇。開幕から600本を超えるヒットが消えている。

 打率はどうか――。MLBの平均打率は下降傾向が顕著だ。2014年は2割5分台だったが、2018年には.248、そして昨季は1972年以来、49年ぶりとなる.244へと落ち込んだ。ロブ・マンフレッド・コミッショナーが「長い歴史に培われてきたものに戻す」と、シフト禁止の意向を表明したのは、大谷の超特大アーチが飛び出した4日後のことだった。

必ずしもシフト率の上昇=平均打率低下ではない

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