大谷の豪快弾と守備シフトの相克 ベースボールは失われた魅力を取り戻せるか 【マイ・メジャー・ノート】第5回

昨季ゴールドグラブ賞を手にしたジャイアンツのブランドン・クロフォード【写真:AP】
昨季ゴールドグラブ賞を手にしたジャイアンツのブランドン・クロフォード【写真:AP】

必ずしもシフト率の上昇=平均打率低下ではない

 数字を実証的根拠にした“シフト率上昇=平均打率低下”の関係に、「あ、そうなのか」と納得する向きもあろう。しかし、これはあくまでも結果から見た傾向を示すもので、選手の感性や技術面は到底、窺知できない。2021年のナ・リーグ遊撃手部門でゴールドグラブ賞を手にしたブランドン・クロフォード(ジャイアンツ)は、そこへの視角を提供する好例になるだろう。

 まず、クロフォードの守備スキルについて感受できるデータを見てみよう。

 独自のデータ分析で知られる「Sports Info Solutions」(SIS)によると、昨季は守備位置の左側(二塁ベース寄り)へ飛んだ打球の処理率がアップ。2019年(コロナ禍で60試合制となった2020年を除外)の57%から61%に上がった。具体的に、251打球(シフト時も含む)が左へのもので、同じ条件で2019年を見ると、アウト数は「-10」と出る。打率でイメージするなら、251打数として80安打で.319、70安打なら.279と差は大きい。昨季、ジ軍は30チームで最も多いシフトによる得点阻止を記録しているが、クロフォードが伸ばした左サイドの4%は戦術とベクトルの相等と解釈もできよう。ただ、「左」サイドに限定せず、「正面」、「右」への動きを探ると、守備力向上へのプロセスの深みに気付かされる――。

 自己ベストの守備率は数値化できない工夫と感性が後押しした。

 昨季のクロフォードには2つの変化があった。位置取りを後ろに下げたのは、打球を目で追う時間を少しでも長くするための方策。一塁までの距離が遠くなるリスクを負うが、球種や打者のスイング傾向などから打球の方向を予測し、スタートに神経を集中させてそれを相殺。フラットに置いていた足元にも変化があった。片足のつま先が前に出る構えは、一歩目へのイメージ力と連動している。シフト時、打者の足の速さと関係なくこの2つを徹底した。加齢からくる体の反応の遅れを克服し、2016年(29歳時)の自己ベストに並ぶ守備率.983を記録した。

守備シフトは今季限り、スピーディーで多様な戦術は復活するか

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