鈴木誠也の“初補殺”に見えた準備の重要性 好守に欠かせぬ「無駄」の思考

「全部考えて守備に入る。だから慌てることなくできている」

 めずらしくクラブハウスが締まる時間前に戻ってきた鈴木は、前日の記念すべきメジャー初補殺についても状況の説明を加えた。

「ランナーがランナーだったので。捕った場所もそんなに深い位置ではなかったので。捕ってからランナーを見て、あ、走ったわ! と思って投げたっていう感じですね。あまり足の速いランナーじゃないんでね。捕って確認をしてから投げたという感じでしたね」

 筒香嘉智の飛球で三塁から本塁を狙ったのは体重113キロの巨漢ボーゲルバック。定位置よりやや前に上がった打球は風で流され鈴木は右翼線寄りで捕球。慌てることなく本塁右前で構える捕手コントレラスにワンバウンドのストライク返球。相手の反撃の芽を摘むプレーだったが、鈴木は本塁補殺への大切なポイントを絞り込んだ。日本と違いメジャーでは特別な場合を除き試合前のシートノックはない。鈴木はどんな準備をして臨んでいるのか。

 問うと、完膚なく説き明かした。

「ランナーがいてもいなくても、どういう打球が来たらこういう捕り方をして、こういう感じで投げてというのはシチュエーションを含めて全部考えて守備に入る。だから慌てることもなくできているのかなと。全打球、難しい打球もそうですし簡単な打球もそうですし、どういう打球の回転で、どういう打球が飛んできそうなのかっていう。ピッチャーが投げた後のスイングの仕方だったりと、ある程度頭に入れているので。もちろんその通りに来ない可能性もあるんですけど、それよりも難しい打球を想定しながら守備に入るので。今のところは落ち着いて守ることができているのかなと思います」

 打撃のように練習を積めないのが守備。異なる場面での捕球から送球の一連の動作をイメージし試合中に周到に繰り返す。「無駄なことを考えないとだめ」とよく言っていたイチローは、本塁打をもぎ取るためフェンスによじ登る足の運び方とグラブの差し出し方まで頭に描いていた。「無駄=あらゆる場面の想定」ができる空白が野球には豊富にある。落ちてくる打球、切れていく打球、打者のバットの出方から一歩目のスタートをどの方向に切るか、半身体勢からの捕球後は体をどう切り返し送球するか……。ライトの芝の上で常に鈴木はシナリオを練ってきた。

 いつになく饒舌だった鈴木の貴重な話の後に思った――。

 筋肉に覚え込ませるのが打撃だとすれば、守備はイメージという記憶の糸のタペストリー。

 結果を導くための、味わい深い準備の側面を鈴木誠也が教えてくれた。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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