深夜の公園で壁当て、ランニング… 元阪神・井川慶氏が現役引退を明言しない理由

伝統の巨人戦は「どっちかというと好きでしたね」と語る井川氏【写真:槌谷綾二】
伝統の巨人戦は「どっちかというと好きでしたね」と語る井川氏【写真:槌谷綾二】

甲子園での伝統の一戦は「リリーフカーで待機している時に…」

 阪神といえば、熱狂的なファンの存在が大きい。特に、甲子園で行う巨人との“伝統の一戦”は別格だ。甲子園は毎回、異様とも言える雰囲気に包まれる。エースとして、熱気と興奮に満ちたマウンドに何度も上がった井川氏は「僕はどっちかというと好きでしたね。巨人戦でいい投球をすれば、他のチームの時よりも評価されますから」と落ち着いたもの。一方で「逆に、巨人の選手は大変だったと思いますよ」と苦笑いを浮かべる。

 井川氏が所属した1990年代後半から2000年代中頃は、甲子園のスタンドからは強烈な野次が飛び交う時代だった。特に宿敵の巨人戦となれば、阪神ファンのボルテージは最高潮となる。憎き敵の一挙手一投足を見逃すまいと、阪神が守備になると客席からの視線は大半が巨人の打者に注がれ、「ファンの方もこっちを(マウンド)見てないので楽でした」というほどだった。

 最近になり、当時の思い出を元巨人の高橋尚成氏と話す機会があったという。

「リリーフカーで待機している時に、物がバンバン飛んでくると(笑)。水やお酒も飛び交っていたようで、投げる前から『びしょびしょだったよ』って。ある意味、甲子園が本拠地で助かりましたよ」

 甲子園が舞台の伝統の一戦では、巨人の選手たちはいろいろな苦労を強いられていたようだ。

 2003年には20勝をマークし、沢村賞も獲得した井川氏。伝統の一戦でも感じたマウンドでの高揚感は、今も鮮明に覚えている。「いろいろと厳しい世の中ですが、また投げられる姿を見せることができればと思います」。今年で43歳。再びマウンド上でファンからの声援を全身に浴びる日を目指しながら、コロナ禍の中で孤独な練習を続けている。

取材協力:プロ野球OBクラブ

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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