なぜスタメンがコロコロ変わるのか? 鷹の首脳陣が抱える理想と現実のジレンマ
藤本監督「長期離脱とかにならないようにやっていかないと」
では、ソフトバンクの場合はどうか。藤本博史監督は「プロ野球選手っていうのは、当然1年間、万全で野球ができる選手は少ないと思う。ほぼ、どこか負傷してるっていうところが多いと思うんです。その中で最低限できる、試合に出られるという状態を保つためにどうしたらいいか、というところを考えてやっている」と語る。日々、オーダーを試行錯誤し、組み替えている考えの根底には、選手に大きな怪我をさせないということがある。
例えば、牧原大に関して「アイツは体はそんなに強くない」と指揮官は語る。過去のシーズンでも牧原大は怪我がちで、フルシーズンをレギュラーとして戦い抜いたことはない。柳町は一時離脱していたように、まだ太ももの状態が万全ではない上に、こちらもシーズンを通して1軍で戦った経験はない。フルシーズンを戦う厳しさは、戦ってみた選手にしか分からないもの。その経験がない選手は、自身の限界を知らず知らずのうちに超えてしまい、大きな怪我につながる可能性が高くなる。
柳田や今宮、中村晃といった面々はフルシーズンを戦った経験があり、自身の感覚の中でその限界を理解し、コンディショニングを考えられる。それでも、調子の浮き沈みはあり、時として怪我をしてしまうこともあるのだが……。若手で期待される渡邉陸捕手は初めて2軍で3試合続けてスタメンマスクを被り、体がパンパンに張ったという。田上奏大投手は1軍で3試合に登板した後、約1か月、疲労が抜け切らなかったという。それほどまでに、プロ野球で試合に出る、というのは過酷なのだ。
「みんないろいろどこか故障を持っている。万全でできるというのはなかなか難しいと思うけど、大事にならないように、長期離脱とかにならないようにやっていかないと。1年間、このメンバーで戦っていくわけだから、そこは気をつけてやっています」と藤本監督も苦しい胸の内を明かす。若い選手たちに怪我をさせず、まずは、1年間戦い抜く経験を積ませることを首脳陣たちは考えている。
シーズンをフルで戦ったことのない選手、故障のリスクが高いと思われる選手は、折を見て休養させながら使わなければならない。では、休ませるタイミングはいつが適当なのか。この前提があった上で、首脳陣は相手投手の左右や相性、それぞれの特徴などを見て、オーダーを決めているという側面もある。勝つためには毎試合ベストメンバーを組みたい。ただ、そうもいかない。そんなジレンマの中で、首脳陣は日々頭を悩ませている。
○著者プロフィール
福谷佑介(ふくたに・ゆうすけ)
1982年8月、東京都生まれ。大阪や愛知で少年時代を過ごし、早大から報知新聞社入社。サッカー担当、野球担当を経て独立し、フリーに。月刊ホークスやベースボールマガジン、ホークスファンクラブ会報誌などにも寄稿。現在はFull-Countで執筆活動を行う。ソフトバンク・甲斐拓也捕手のスローイングを初めて「甲斐キャノン」と表現した。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)