阪神の意識“変えた”指導を子どもたちへ… 選手を伸ばす「技術を言葉にする力」

2003年から2年、阪神で1軍、2軍でトレーニングコーチを務め、独立

 バッティングでも、ピッチングでも、指導者はよく「体を開くな」と言ってしまう。また、ボールを投げる時には「肘を前に出せ」、バッティングでは「軸足に残せ」などという指導者の声もよく耳にする。

「『開くな』ではなくて、なぜ開いてしまうのか、開かない方法を教えてあげないといけない。『肘を前に出せ』も『軸足に残せ』も、実際にはそうなっていないのは見たら、分かることです。そういう感覚、イメージを持ちなさいということであって、指導者はイメージと実際の区別つけることが大切です」

 2003年に阪神の1軍トレーニングコーチになった際は、新しいメニューをウォーミングアップに取り入れた。技術に関しては、投手や打撃の専門コーチの“聖域”になるため、技術コーチと選手が実現したい身体の使い方ができるためのトレーニングも一般的な体力強化にあわせて行った。

「星野(仙一)さんは『私が責任を取るから、お前の思ったとおりにやれ。今までのようなやり方で(2002年まで)駄目だったんだから、周りがいろいろと言ってきても、それに屈するな』と言ってくださったのが、大きかったです」

 アップから野球の投打動作のベースになる股関節や胸郭、肩甲骨の動きづくりを取り入れた。選手にその仕組みの説明もした。「僕のおかげではないです」と否定したが、目立った怪我人も出ず、阪神にとって18年ぶりの快進撃に一役買ったのは間違いない。

「結構、今までの野球界の慣習と違うことをやったので、『プロ野球が分かってない』と言ってくるコーチの方はいらっしゃいました。でも星野さんに『お前の思った通りにやれ』と言われていますから、そういう声と闘いながら、自分の思った通りにやることができました」

 阪神コーチは2004年までの2年間だけだったが、古い慣習をなくし、自分のポリシーを貫けた自負はある。技術面やフィジカル面で“真の一流”を見ることができたことが、今の仕事の信念にもつながっている。

「感覚やイメージでの指導で言われていることは、私が子どもの時から特に変わっていません。そのような指導で発展できるレベルには、とうの昔に行きついているのだと思います。指導者はもちろん、選手も動作の仕組みを理解して、問題の原因がはっきりと分かる中で練習していくのが当たり前になることで、野球界は加速的に発展すると確信しています」

 今はすべての世代に野球の技術を伝えるため、全国を飛び回っている。野球指導の“塾”も全国に増え、教え子が指導者となって前田氏のもとへ帰ってきている。感覚や技術を細かく言葉にできる前田氏は新たな野球の“伝道師”として、球界の新たな未来を創造していくだろう。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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