戦力外通告から社会人野球の頂点へ…元中日の“守備の人”が「見返したかった」こと
「どうせ打てないだろうと思われてきたので…」守備の人にかかったバットの期待
ENEOSの大久保秀昭監督も「プロの経験値というかね。補強してよかったなと思いました」とうなずく一打。指揮官もアトランタ五輪で銀メダルに輝いた後、当時の近鉄入りしプロの世界で飯を食ったことがある。武田を補強選手に選んだのは、毎日試合を繰り返すプロならではの、圧倒的な経験値を買ったからだ。選んだ理由を「東京ドームも経験している。いい投手を数多く見ているはずですし。一番脂がのっている時期だと思いますよ」と説明し、さらに「攻走守、すべてに期待しています」と続けた。これこそ武田が待っていた一言だった。
武田は「絶対打って、チームに貢献したいという思いだけでしたね。悔しい思いをしてきたので、絶対打って見返してやりたいと思っていた」。オフに味わった戦力外通告の悔しさ、そしてもうひとつ、はがしたいレッテルがあったのだという。
「これまで『どうせ打てないだろう』と思われてきたので……。そういうのを見返してやりたかったんです」
プロでの武田の見られ方は「守備の人」だった。1軍での出番は試合後半の守備固めが圧倒的に多く、通算404試合に出場しているものの打席は530、打率は.223にすぎない。「ああいう場面はこれまでも何回もあったけど、打てないことの方が多かった。でも今はプロでの経験もある。意識を変えてやれていると思う」。何度も、しつこいくらいに繰り返したガッツポーズは、変身を果たせた喜びだったのだろうか。
勝ち続ける間、ベンチ上には中日時代のタオルをかざして応援するファンの姿があり、武田の目にも入っていた。高校時代以来となる一発勝負の世界でも、何ら気持ちは変わらない。「プロでやってきた全力疾走や全力プレーは変えずに、選んでくれた大久保監督に恩返しをしたい」との一念で5試合を駆け抜けた。計7安打、打率.318。決勝戦でも一塁へのヘッドスライディングを敢行し、ほとばしる気迫で応援席を沸かせた。
プロから社会人に戻る道が復活して久しい。近年、都市対抗優勝という栄光をつかんだ選手には細山田武史捕手(元DeNA、ソフトバンク-トヨタ自動車)や須田幸太投手(元DeNA-JFE東日本)がいる。プロでの経験を生かしてこの舞台で輝く選手が、これからも続くに違いない。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)