横浜を最後まで追い詰めた 横浜隼人“主将”が夏の敗戦から踏み出した一歩

『家族に感謝』と刺しゅうを入れたキャッチャーミット【写真:大利実】
『家族に感謝』と刺しゅうを入れたキャッチャーミット【写真:大利実】

キャッチャーミットの刺しゅうに込めた想い

 夏の大会前、前嶋は新しいキャッチャーミットをオーダーした。球際を強くするために、ミットを少しだけ大きくし、素早い握り替えを求めて、ポケットをやや浅くした。そして、左手を入れる部分に『家族に感謝』と刺しゅうを入れた。

 これまで、さまざまな高校球児のグラブを見てきているが、ここまでストレートな言葉を入れる選手も珍しい。

「小学生から野球をやらせてもらって、中学2年生のときにはオセアンの練習がきつくて、『野球を辞めたい』と言ったときもありました。そんなときにも支えてくれたのが家族でした」

 実家は、理容店を営む。髪型自由の横浜隼人は、部員の多くが髪を伸ばしているが、前嶋は「気合いが入る」という理由で丸刈りを貫く。いつも、母親がきれいに刈ってくれるという。今夏も、開会式の前日に、母親にお願いした。

「お母さんには朝早い時間からご飯を作ってもらって、お父さんには車で駅まで送ってもらって、本当に家族には感謝しかありません。野球で恩返しがしたい。一番の目標は、プロ野球選手になって、活躍すること。それが、僕ができる一番の親孝行だと思うので、そこを目指して、練習していきたいです」

 目標とするのは、「勝てるキャッチャー」だ。キャッチャーは、チームが勝つことによって評価が上がる。どれだけ肩が強くても、キャッチングがうまくても、勝利に結びつかなければ、心から喜ぶことはできない。

 水谷監督と家族への想いに応えるために、夏の大会後、すぐに練習に取り組んでいる。この夏に流した悔し涙を糧に、次なるステージでの飛躍を誓う。

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。

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