「気持ち」を語る指導者は“逃げ” 仙台育英・須江監督、有言実行の“4年前のLINE”

「負けたのは技術がなかっただけ」…技術を伸ばすことに時間を使う

 この夏――、中学校の先生にLINEを送ってから4年後、言葉通りに日本一を成し遂げた。「3年以内」の目標は叶わなかったが、予期せぬコロナ禍を考えれば、「有言実行」と言っていいだろう。

 背番号1を着ける古川翼を筆頭に、最速140キロ台のピッチャーを5人擁し、他校がうらやむ投手起用で相手打線を封じた。

 攻撃は、エンドラン、セーフティスクイズ、ディレードスチールなど、積極的に足を絡めて守備陣をかく乱。ミスが出ることもあったが、「動くことで、相手にプレッシャーをかけることができる」と、仕掛け続けた。

 指導者としての土台は、2006から2017年まで監督を務めた秀光中時代に作られた。2014年に日本一を獲るまでは、全中に出てもなかなか勝てない時期が続いた。2011年に全中の準々決勝で敗れたときには、よどむことなく、敗因を語った。

「負けたのは技術がなかったからです。気持ちや体力、意識の面では、日本一を狙えるレベルにあったと思います。そこを『気持ちで負けた』と言うのは単なる逃げ。技術がなかったから負けた。野球選手である限り、技術を伸ばすことを考えていかなければ、上に進むことはできません」

 敗戦後のコメントで「気持ち」を語る指導者は多いが、そこに逃げることなく、野球との向き合い方を口にした。

 私はこの言葉を聞いたときに、「近いうちに須江先生が全中を獲る」と感じたことを覚えている。

「今まで自分がやってきた経験や考えはすべて捨てる。イチから勉強し直す」と決意し、2013年からは、トレーナーであり、ベースボールコンサルタントとして活動していた和田照茂氏のサポートを受けるようになった。ここから、「野球の競技性」を理解し、浸透させることに力を入れ始めた。「野球は陣地取りゲーム」「無死一塁からアウトひとつ引き換えに塁を進めても、得点は入らない」。ロースコアの試合が多い中学軟式野球は、走塁で優位に立てれば、得点の可能性が高まる。

「奪進塁」「助進塁」といった指標をもうけ、選手の得点貢献度を数値化した。コンマ数秒でも速く次の塁を狙うために、二塁盗塁の際、左足を伸ばすスライディングの習得を徹底。顔がセンター方向に向くために、キャッチャーからの送球が外野に逸れたときに、瞬時の判断がしやすいという理屈だ。

 年間の試合数は150を数えることも珍しくなく、遠征当日の朝に、東京の天気予報が悪いと分かれば、行き先を新潟に変更したこともあった。日本一から招かれるために、小さなことでも、「これが大事」と決めたことには妥協なくこだわる。

 このマインドは、高校の監督になってからさらに強くなり、「東北勢初の日本一」を成し遂げるための大きな土台となった。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

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