後輩イチローから「僕に投げてほしい」 “秘密の恋人”だった元左腕が社長転身のワケ

イチロー氏に投げる前田耕司さんの写真パネル【写真:山口真司】
イチロー氏に投げる前田耕司さんの写真パネル【写真:山口真司】

試合後に人知れず打撃投手「しんどかった。でも、楽しかった」

 結果、進路を迷っていた前田氏は、オリックスでの打撃投手の道を選択。以来、イチロー氏との関係も深まっていった。「翌年のキャンプ初日、僕の打撃投手デビューの相手もイチローでした。球界の宝ですからね。ぶつけたら大変と思いながら投げたのを覚えています」。もっとも当時のオリックスで“イチローの恋人”といわれた打撃投手は他にいて、前田氏の存在はあまりクローズアップされていない。

 それもそのはず。前田氏は全体練習とは別に行う特打で投げる役割が中心だった。いわば“秘密の恋人”だ。「体はしんどかったですよ。練習が終わってから、本業のあとにまた投げるんですからね。試合終了後、誰も見ていないところで投げることも多かった。でも、それも楽しかったんです。夜になってから打ちたいので来てほしいと頼まれて室内練習場に行ったことも何度もありましたね」と振り返る。

 サポートはそれだけではない。「遠征先で夜中にイチローが素振りをするために食事会場だった宴会場を使わせてもらうようにホテルにお願いしたことも何回もありました。外に食事に行こうとなったときは、例えばラーメンならここがうまいとか、いろいろ調べました」。イチロー氏を支える“世話役のお兄さん”のような存在だった。

 そもそも、セカンドキャリアとの接点を持った日も、イチロー氏と共にいた。「あるとき、知り合いの整体の先生から(スキー・ノルディック複合の)荻原兄弟と食事に行かないかと言われて、イチローと一緒に行ったんです。そして翌日、あいさつにきてくれたのが荻原兄弟のマネジャーだったスポーツビズの人だったんです」。この縁が後々につながっていくわけだが、加えてスポーツマネジメントの世界では4球団を渡り歩いた人脈も前田氏の大きな武器になった。しかし、そのプロ野球人生は波瀾万丈。トレードの直談判をしたこともあった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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