「全ての投手に幸せになってほしいんや」 ロッテ新監督の吉井理人氏は“こんな人”
激情家だった過去「ワシ、しょうもない選手やったからな…」
投手を守ろうとする姿勢は、師匠にあたる権藤博氏(元横浜監督)から吸収したものだろう。時計の針をさらに戻す。吉井氏は現役時代の1989年、近鉄のストッパーとしてパ・リーグ制覇に貢献した。ところが優勝を決めたダイエー戦で、当時の仰木彬監督は9回、先発エースの阿波野秀幸投手をマウンドに送り出した。吉井氏は激昂、ひとりチームの輪を離れて、胴上げ中もブルペンにいた。投手コーチだった権藤氏はそこに現れ、「スマン」と詫びてきたのだという。権藤氏は直後、近鉄を去った。辞め方まで同じだった。
とはいえ、感情だけで動く人間ではない。日本ハムを離れた2013年からは、筑波大の大学院で“学び直し”をしている。「ワシ、引退してすぐコーチになったから、この教え方で本当にいいのか分からんのよ。学問的な裏付けが欲しいんや」。日本ハムのキャンプに、論文のための取材に訪れたこともあった。修士号を得て、その後もコーチ生活を続けている。
もうひとつ、吉井氏の根底には、プロ野球選手は常に「カッコよくあらねばならない」という考え方ががある。
「めっちゃカッコよかったな。ワシの夢が一つ叶ったわ。ありがとうって言わなアカンな」
そう言っていたのは、2011年。現在はパドレスで投げるダルビッシュ有投手が、突然“振りかぶって”投げたことがあった。いつもセットポジションで投げていたのに、ツイッター上でのファンからのリクエストに応えてだったはずだ。試合後の吉井コーチに話を向けると、まるで子どものような喜びようだった。
今春、日本ハムの2軍本拠地・鎌ケ谷スタジアムで偶然会った。「監督に興味はないんですか」という話になると「ないな。その前にやらなアカンことがたくさんあるわ」と笑っていた。それが半年後、こんなことになるとは……。「自分の現役時代のこと考えると、ホンマに恥ずかしい。ワシ、しょうもない選手やったからな」というところから指導歴を重ねてきた新指揮官。これまでの球界にない“言語”で動くチームが誕生するのではないかと、期待している。
○著者プロフィール
羽鳥慶太(はとり・けいた)神奈川で生まれ、愛知、埼玉などで熱心にプロ野球を見て育つ。立大卒業後、書籍編集者を経て2001年、道新スポーツに入社。プロ野球日本ハムを長年担当したのをはじめ、WBCなどの国際大会、アマチュア野球、平昌冬季五輪なども取材する。2021年よりFull-Count編集部所属。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)