“神奈川の名将”が北海道で奮闘 監督就任2年…加賀谷実氏が明かす現在地
部員は「加賀谷監督」ではなく「加賀谷さん」と呼ぶ…髪型も自由
今、徹底して力を入れているのが体作りだ。
弥栄高校時代から親交の深い、トレーナーの須田和人さんを年に数回招き、須田さんが発案した「野球体操」を実践。10キロのプレートを使って、股関節を中心とした体幹を鍛える。さらに、1日4個のおにぎりを授業や練習の合間に食べることを徹底し、体重アップに励んでいる。
「体はかなり強くなってきています。神奈川で痛感したことですけど、体ができなければ、私学には太刀打ちできません」
おにぎりの大きさが気になり、「お米の量も決めているんですか?」と聞くと、笑みを浮かべながら意外な言葉が返ってきた。
「ミートボールぐらいの大きさでもオッケーです。そこは選手に任せています。今は食べる回数のほうが大事。神奈川にいるときは、そういうところまで徹底していましたが、紋別高校はさまざまな面で土台作りの段階。いい意味でのんびりやっています。いきなりガツガツやると、おかしくなっちゃうから」
髪型も自由だ。「丸刈りを強制したら、部員が減るのは間違いありません」と笑う。
室内練習場での雰囲気を見ても、監督の目を気にするような緊張感はなく、選手たちが笑顔で練習に取り組んでいた。監督と選手の距離感も非常に近い。驚いたのが、女子マネジャーも選手も、「加賀谷さん」と呼んでいたことだ。
「今は、“地域のおじさん”みたいな立場でいいんですよ。ここから全道大会に出て、勝つようになってくれば、自然に緊張感が生まれてくる。次の春が、私が来てから3年目になるので、何とか全道大会に行きたい。今の取り組みを続けていけば、勝てるとは思うんですけどね。ただ、ここにいると、他校との差がなかなかわからない。神奈川との一番の違いは、強豪との力関係がなかなか見えないこと。遠征に行くにしても、4時間や5時間、普通にかかる。これはもう大変なことですよ」
部員数の少なさ、さらに市唯一の高校ということもあり、「競争」「刺激」という点に物足りなさを感じるという。どれだけ、自分たちの意識を外に向けることができるか。それが、ここからステップアップしていくためのカギとなる。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。