大谷翔平の故郷・岩手が抱く“危機感” 高1部員増加にWBC効果も…手放しで喜べぬ理由

エンゼルス・大谷翔平【写真:ロイター】
エンゼルス・大谷翔平【写真:ロイター】

大谷翔平を生んだ岩手では…高校野球の1年生部員が増加

 日本高野連は7月、今年5月末現在の硬式野球部員数を発表した。全国で12万8357人で、9年連続の減少。ただ1年生の部員数は4万5321人で、昨年の4万5246人からわずかながら増加に転じた。3月に行われ、日本が優勝したワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の影響はあったのか。世界一の主人公となった大谷翔平投手(エンゼルス)が生まれ育った岩手では、何が起きているのだろうか。

 大谷の故郷、岩手県奥州市にある水沢高は、この夏の第105回全国高校野球選手権岩手大会で、後に8強進出する盛岡誠桜高との2回戦に2-3で惜敗した。土壇場の9回に追いついたものの、直後に失点し涙をのんだ。

 ただこの夏、マネジャーを含めれば19人もの1年生部員が名簿に名を連ねた。2年生が7人しかいないのとは対照的だ。この試合の9回、同点劇を呼ぶ三塁打で出塁したのも、公式戦初出場の菅野礼雄内野手(1年)だった。

 さきの調査結果によれば、岩手県全体の1年生部員は660人で、昨年から27人増。2019年以来4年ぶりの増加に転じた。ただ10年前の2013年に比べれば250人減で、部員減は深刻だ。

岩手大会2回戦・盛岡誠桜高との試合、9回に同点に追いつき喜ぶ水沢高ナイン【写真:羽鳥慶太】
岩手大会2回戦・盛岡誠桜高との試合、9回に同点に追いつき喜ぶ水沢高ナイン【写真:羽鳥慶太】

県立高の監督は危機感「部員が増えている印象はあまりない」

 水沢高の佐々木明志監督は、2019年まで県高野連の理事長を務めたこともある。新入部員が増えたことについては「大谷選手やWBCの影響もあるかもしれませんね。地元ですから、地域もすごく盛り上がっていた」とする一方で「高校で部員が増えている印象は、あまりないんです」と危機感を露わにする。

 毎年見ているのは、中学校から高校進学の際の「野球継続率」だという。岩手の場合、6割5分程度。年に寄ってばらつきがあるのが普通で、7割程度あると「今年は高いな」と感じるのだという。毎年誤差があるものと考えると、1年生の増加も手放しでは喜べない。

「人口が少なくなっていて、盛岡でさえ減っています。沿岸部や県北部ではこれから激減していくでしょう。どのスポーツも単独チームの維持が難しくなってくると思います」

 岩手県の高野連でも、少年への普及活動を始めているという。「遅ればせながらですけど、成果が出るのは数年後になると思います。野球の楽しさを伝えて、選んでもらえるようにしたい」。その上で、大谷や菊池雄星(ブルージェイズ)、佐々木朗希(ロッテ)らの活躍も、野球に興味をもつきっかけになるのではという。「岩手の子が大きな大会で定期的に活躍するとなれば、野球の楽しさや素晴らしさもより伝わる。期待したいところです」。草の根の活動と、偉大なOBの活躍という両輪で、野球を持続可能なスポーツにしたいところだ。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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